「観光」という言葉の本来の意味をご存知でしょうか。それは文字通り「日常にはない光を観て、その輝きを心の拠り所として日常を生きる」ことだと考えられます。1930年代という激動の時代、日本にその真の意味での観光を体現したドイツ人建築家がいました。彼の名はブルーノ・タウト。桂離宮の美を再発見し、自らスケッチをまとめた画帳を出版したことでも知られる、非常に稀有な感性を持った人物です。
タウトが来日したのは、日本が国際社会で孤立を深め、ファシズムの影が忍び寄っていた2019年07月11日から遡ること80年以上前のことでした。建築家としての仕事が限られる過酷な状況下で、彼は日本各地を巡り、数々の旅行記を執筆しています。同時に、仙台や高崎といった地方都市において、その土地特有の素材を活かしながら現代的な感性を取り入れる「グローカル」なデザイン指導に情熱を注いだのです。
表現主義の魂が宿る「竹製の傘の取手」と剣持勇への影響
彼がデザインした「竹編みのステッキ」や「傘のグリップ(取手)」、そして「ヤーンバスケット(毛糸入れ)」といった日用品は、今見ても驚くほど独創的です。これらの作品には、タウトの本領である「表現主義」の息吹が鮮やかに感じられます。表現主義とは、20世紀初頭にドイツで興った芸術運動で、近代化や技術革新によって置き去りにされた人間の内面的な情熱や身体感覚を、力強く呼び起こそうとする試みのことです。
SNS上では「古い竹細工なのに、どこか北欧デザインのような洗練さを感じる」といった声や、「日本の手仕事の価値を外国人に教わったのは皮肉であり、幸運でもある」という意見が目立ちます。タウトの指導を受けた若き日の剣持勇が、後に戦後日本のインテリアデザインを牽引する第一人者となった事実は、この異国からの刺激がどれほど日本のデザイン界に深く根を張り、大きな実を結んだかを物語っているでしょう。
ブルーノ・タウトが日本の美に対して抱いた感情は、単なる「もののあはれ」への感傷に留まりませんでした。彼はヨーロッパ人としての強固な精神性と確固たる信念を持ち、日本という国に心からの敬意を込めて「デザイン」という名の贈り物を遺してくれたのです。2019年07月11日現在、群馬県立歴史博物館に所蔵されているこれらの竹製品は、時を超えて私たちに「自分たちの文化の光」を再認識させてくれます。
私自身の視点から述べさせていただければ、タウトの功績は単なる技術指導ではなく、日本人が見過ごしていた足元の美しさに「モダン」という新しい命を吹き込んだことにあります。グローバルな視点とローカルな素材を掛け合わせる彼の姿勢は、現代のクリエイターにとっても色褪せない教科書と言えるでしょう。私たちは、この「竹製の取手」に込められた熱い激情を、もっと誇りに思って良いはずです。
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