中東の要衝であるホルムズ海峡を巡る情勢が、かつてないほどの緊迫感に包まれています。2019年06月には日本や台湾のタンカーが相次いで攻撃を受けるという衝撃的な事件が発生し、石油輸出国機構(OPEC)も減産延長を決定しました。通常であれば、これほどの供給不安材料が揃えば、原油価格は天井知らずに跳ね上がっても不思議ではありません。
しかし、実際のマーケットの反応は驚くほど冷静な推移を見せています。2019年07月11日には、ニューヨークの原油先物価格が1バレル60.94ドルの高値を記録したものの、2018年10月に付けた76.9ドルという水準には遠く及びません。この奇妙な落ち着きは、SNS上でも「中東があれだけ荒れているのに、なぜガソリン代が爆上がりしないのか」といった疑問の声として現れています。
世界景気の「冷え込み」が原油の高騰を抑え込む構図
原油価格の上値を重くしている最大の要因は、世界経済の減速に対する市場の強い警戒感です。特に銅やアルミニウムといった、景気の先行指標とされる「非鉄金属」の価格が低迷していることが象徴的でしょう。これらはスマートフォンや自動車、インフラ建設に欠かせない素材であるため、その需要減はそのまま世界的な景気後退のサインとして受け止められているのです。
さらに、これまで世界の成長エンジンだった中国やインドで新車販売が落ち込んでいることも見逃せません。車が売れなければ、当然ながらガソリン需要の伸びも鈍化します。投資家たちは、中東の地政学リスクよりも、米中貿易摩擦などが引き起こす「需要の蒸発」というリスクの方をより深刻に捉えているというのが、現在の市場の偽らざる姿といえるでしょう。
ここで専門用語の解説ですが、現在の市場は「バックワーデーション」という状態にあります。これは、将来受け取る約束の価格よりも、今すぐ手に入る価格の方が高い状態を指します。普通は保管料などがかかるため将来の方が高くなるのですが、この逆転現象は「将来の需要に期待が持てない」という、市場の弱気な心理を如実に反映しているのです。
投機筋の動きと「ホルムズ・ショック」への潜伏リスク
ヘッジファンドなどの大口投資家の動きを見ても、以前のような強気姿勢は影を潜めています。2019年07月09日時点の統計では、将来の値上がりを見込んだ「買い越し」の幅が、ピーク時だった2019年04月頃と比較して3割近くも減少しました。一方で、値下がりを見越して利益を狙う「売り」のポジションが増えており、プロの投資家たちも慎重な姿勢を崩していません。
私自身の見解としては、現在の市場は「嵐の前の静けさ」を保っているに過ぎないと感じています。確かに世界景気の不安は大きいですが、ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約3割が通過する大動脈です。もし万が一、この海峡が物理的に封鎖されるような事態になれば、現在の「弱気」な予測は一瞬で吹き飛び、積み上がった売り注文の買い戻しが相場を爆発的に押し上げるでしょう。
2019年07月22日現在、私たちは「景気後退による価格下落」と「紛争による価格急騰」という、正反対の巨大なリスクが拮抗する極めて不安定な局面に立たされています。エネルギーコストの激変は私たちの生活に直結する問題だけに、中東の波風がこれ以上高くならないことを祈るばかりです。今後も国際エネルギー機関(IEA)による需要予測の修正には、細心の注意を払う必要があるでしょう。
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