今、日本の観光シーンに新しい風が吹いています。普段は立ち入ることのできないダムや洪水対策施設などを巡る「インフラ観光」が、熱烈な注目を集めているのをご存知でしょうか。かつては専門家や一部の愛好家だけが楽しんでいた巨大構造物が、今や地域を活性化させるための強力な観光資源として生まれ変わっているのです。
特に話題を呼んでいるのが、東京湾に浮かぶ人工島「第二海堡(だいにかいほう)」への上陸ツアーです。明治から大正にかけて首都防衛の要として築かれたこの要塞島は、長らく一般人の立ち入りが制限されていました。しかし、2019年に入り本格的な観光活用がスタートすると、その歴史的な重厚感と「非日常」を味わえる特別感が、SNSを中心に大きな反響を呼んでいます。
実際にSNS上では「まるでファンタジー映画の世界に迷い込んだようだ」「巨大な構造物を間近で見る迫力に圧倒された」といった興奮気味の声が次々と投稿されています。こうした「ここでしか撮れない写真」が拡散されることで、これまで土木技術に関心が薄かった層、特に若者や家族連れの間でも、インフラ施設を目的地とする旅が一般化しつつあるのでしょう。
最新テクノロジーと光の演出で進化する「魅せる」公共施設
岩手県にある錦秋湖(きんしゅうこ)では、ダムの放流を鮮やかに彩るライトアップイベントが開催され、幻想的な夜の風景が訪れる人々を魅了しています。ただ施設を公開するだけでなく、エンターテインメント性を高める演出を施すことで、これまで単なる「壁」や「水溜まり」だと思われていた場所が、感動を呼ぶステージへと変貌を遂げているのです。
さらに、受け入れ側の工夫も目覚ましいものがあります。最新のAR(拡張現実)アプリの導入もその一つです。ARとは、スマートフォンのカメラ越しに見る現実の景色に、デジタル情報を重ね合わせて表示する技術を指します。これを使えば、かつての施設の姿や複雑な内部構造を目の前の風景に重ねて学ぶことができ、専門的な知識がなくても直感的にその凄さを理解できるはずです。
国土交通省は、2019年現在で約50万人となっているインフラ施設への年間来訪者数を、2020年度には100万人へと倍増させる野心的な目標を掲げています。単なる見学に留まらず、地域の食やアクティビティと連動させることで、観光振興の柱に据えようとする動きが活発化しており、日本全国の「隠れた名所」が掘り起こされる格好の機会となるでしょう。
編集者の視点から言えば、このインフラ観光の盛り上がりは、単なる一過性のブームではなく、日本の高度な技術力を再発見する素晴らしい文化だと考えています。私たちの暮らしを支える「縁の下の力持ち」にスポットライトを当てることは、防災意識の向上にも繋がります。知的好奇心を満たしながら、国家の歩みを感じられるこの旅のスタイルは、今後さらに洗練されていくに違いありません。
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