日本美術の歴史において、もっともドラマチックな運命を辿った名宝といえば「佐竹本三十六歌仙絵(さたけぼんさんじゅうろっかせんえ)」を置いて他にないでしょう。かつて一つの長大な絵巻物だったこの作品が、大正時代の1919年にバラバラに切断されてから、ちょうど100年という大きな節目を迎えようとしています。この記念すべきタイミングに合わせて、日経アカデミアでは、その数奇な歴史と王朝文化の神髄に迫る連続講座「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」の開催を決定しました。
2019年10月2日から全3回にわたって実施されるこの講座は、東京・大手町の「SPACE NIO(スペース・ニオ)」を舞台に、豪華な講師陣を迎えて展開されます。そもそも「三十六歌仙絵」とは、藤原公任が選んだ優れた歌人36人の肖像に、それぞれの代表歌を添えた鑑賞用の絵巻を指します。なかでも旧秋田藩主・佐竹家に伝わった本作は、鎌倉時代の肖像画における最高傑作として名高く、美術愛好家の間では憧れの対象となってきました。しかし、あまりにも高価であったために、100年前の当時の富豪たちは一括での購入を断念したのです。
その結果、絵巻は歌人ごとに切り離され、くじ引きによって当時の政財界人や茶人たちに分配されることとなりました。SNS上では「文化財を分断するなんて現代では考えられない」という驚きの声が上がる一方で、「バラバラになったからこそ、それぞれの大名たちが大切に守り抜き、今に伝わったという側面もある」といった、歴史の皮肉に対する深い考察も見受けられます。今回の講座では、井上隆史氏をはじめとする3名の専門家が、この「分断」という悲劇的な出来事が日本美術史に与えた影響や、作品に込められた平安・鎌倉期の美意識を丁寧に紐解いていきます。
編集者である私個人の視点としても、この「流転」という言葉には抗いがたい魅力を感じてやみません。単に美しい絵を眺めるだけでなく、それがどのような人の手を経て、どのような執念で守られてきたのかという背景を知ることで、作品の見え方は劇的に変わるからです。100年という歳月は、一つの物語が伝説へと昇華するのに十分な時間と言えるでしょう。この秋、京都で開催される大規模な展覧会をより深く楽しむためにも、この連続講座で予備知識を蓄えておくことは、最高の知的贅沢になるに違いありません。
講義の日程は、第1回が2019年10月2日、その後も11月にかけて全3回のカリキュラムが組まれています。かつて1つの巻物だった「佐竹本」が、時を超えて私たちの前に再びその全貌を(概念として)現す瞬間を、ぜひ見届けてください。専門用語が飛び交う堅苦しい場ではなく、王朝文化の華やかさと、激動の近現代史を同時に味わえる貴重な機会となるでしょう。仕事帰りに大手町で、100年前の文人たちが見た夢の続きを一緒に追いかけてみませんか。
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