📚医学の道を切り拓いた読書遍歴!関西棋院理事長・正岡徹氏に聞く「ゲーテ」と「白血病治療」の深いつながり

2019年6月15日に公開されたこの記事では、関西棋院理事長を務める正岡徹氏の、医師としての功績と、その基盤を築いた驚くべき読書体験にスポットを当てています。特に、氏が白血病治療の最前線で活躍された背景には、青年期にドイツ文学の金字塔であるゲーテの著作を丸暗記するという、常人にはないほどの熱量があったことが明らかになっています。この異色の経歴を持つリーダーは、いったいどのような思考の道筋を辿ってこられたのでしょうか。

正岡氏の幼少期の読書体験は、少年講談の『里見八犬伝』や『霧隠才蔵』に始まり、中学時代には夏目漱石や吉川英治の作品へと移っていきます。特に、父親が所有していた『漱石全集』を読み漁り、『吾輩は猫である』や『それから』に強く惹かれたそうです。また、吉川英治の『三国志』に登場する曹操や諸葛孔明といった人物への興味は尽きることがなく、後の人生で、白血病に関するシンポジウムで出会った曹操の子孫とされる先生との縁を深め、「アジア太平洋骨髄移植学会」の発足と地域間の協力体制の確立へとつながる、深いご縁を生み出しています。読書がもたらす人とのつながり、そして歴史への関心が、世界的な医学の発展に寄与した事実は、非常に興味深いと言えるでしょう。

正岡氏が大阪大学医学部に入学され、最初の2年間で必修科目であったドイツ語の授業で直面した課題は、驚くべきものでした。担当のドイツ人教官から、基礎を教わった直後に、大詩人ゲーテの代表作であり、神と悪魔の賭けから始まる難解な戯曲『ファウスト』の原文を丸暗記するように命じられたのです。学生に選択の余地はなく、記憶力が良かった正岡氏は、他にも『タッソー』など複数のゲーテ作品を暗記することになります。『ファウスト』は「時間よ止まれ、お前は美しい」という有名なフレーズに代表されるように、美しい言葉が随所に散りばめられており、氏はこの原書を何度も読み返すことで、ドイツ語の習得だけでなく、その世界観を深く理解していったようです。

そして30代になり、ドイツへ留学された際、記憶していたゲーテの文章が、現地の先生方との円滑なコミュニケーションに大いに役立ったと振り返っておられます。これは、単なる語学力の証明にとどまらず、その国の文化や教養への深い敬意を示す行為であり、信頼関係を築く上で極めて重要だったのではないでしょうか。正岡氏は医師として、当時「血液の難病」とも呼ばれていた白血病(血液を作り出す造血幹細胞が悪性化して異常に増殖する病気)との苛烈な闘いに身を投じました。大人になってから発症した急性白血病(進行が速い白血病)の患者さんを初めて完治に導くという、医学史上特筆すべき功績を残されています。その後も、放射線治療、骨髄移植(正常な造血幹細胞を点滴で移植する治療法)、そして臍帯血移植(へその緒と胎盤に含まれる血液から造血幹細胞を移植する治療法)といった、新しい治療法の開発に精力的に取り組んでこられました。

正岡氏の人生には、多くの偉大な先達や仲間との出会いがありました。『免疫学に恋して』の著者である山村雄一先生は阪大医学部の大先輩であり、医学部長や総長を歴任された方で、正岡氏は大変お世話になったそうです。『糖尿病物語』の垂井清一郎先生は大学時代の恩師にあたります。また、『低量放射線は怖くない』の中村仁信氏は、放射線治療の研究を共にした仲間であり、氏の研究者としての情熱を支えてきた人物です。最先端の研究をされていた時期には、書店に並ぶ本よりも最新の論文(研究の成果をまとめた文書)が必須であり、自身の発見が「どこにも書かれていない」ことを確認するため、血液学会などの論文には必ず目を通し、ご自身も多数の論文を執筆されてきました。これは、科学者として世界的な知の最前線に立ち続けるための、強い探求心と努力の賜物だと言えるでしょう。

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📚ルーツへの探求と囲碁の可能性:広がる正岡氏の活動領域

60歳を過ぎてからは、ご自身のルーツである「正岡家」の歴史にも深い興味を持たれたそうです。12世紀の四国・大三島に始まり、豊臣秀吉による四国征伐によって主家の河野氏が消滅し、正岡家が離散していった経緯を紐解く中で、何人かの同好の士と出会い、歴史の勉強へとつながっていきます。この探求がきっかけとなり、2004年7月には140人もの人々が集まる「正岡祭り」が開催され、その後も4年ごとに開催されるなど、一族の絆を深める大きな収穫となりました。最近ではミクロネシアに住む正岡氏も駆けつけるなど、その輪は世界へと広がっています。ルーツへの関心から、歴史書である『伊予河野氏と中世瀬戸内世界』や、自分とのつながりは不明ながらも正岡子規関連の本、さらには日系アメリカ人のリーダーとして功績を残した人物の半生を描いた『モーゼと呼ばれた男 マイク・正岡』なども愛読書として挙げられています。

正岡氏が父から仕込まれ、アマチュア六段の腕前を持つ囲碁は、2017年にご縁があり関西棋院の理事長に就任されるという形で、新たな活動の場を提供しました。『高尾紳路 不惑の出発』は、40歳で名人を奪還した高尾九段が自らの半生を振り返る著作で、師匠である藤沢秀行名誉棋聖とのエピソードも収録されており、氏にとって非常に興味深い一冊だったようです。囲碁がボケ防止(認知症予防)に役立つことは広く知られていますが、正岡氏はご自身の専門分野である医学と結びつけ、囲碁が発達障害(生まれつきの脳機能の偏りにより、コミュニケーションや社会生活などに困難が生じる状態)の子供たちの療育(治療と教育を組み合わせたサポート)に役立つ可能性を検証していきたいという、先駆的な研究を進めています。

実際に、プロ棋士を派遣して子供たちに囲碁を打たせたところ、対人恐怖症(人前で話すことや、人から注目される状況などに強い不安や恐怖を感じる精神障害)だった子が2年間囲碁を続けた結果、学校へ行けるようになったという具体的な事例も報告されているそうです。さらに、氏の専門分野に大変近い話題として、「臍帯血移植が発達障害に治療効果があった」という驚くべき論文が最近発表されており、氏はこの分野の続報にも大きな期待を寄せているとのことです。白血病治療の最前線を切り拓き、歴史の探求を経て、囲碁を通じた新たな社会貢献へと視野を広げる正岡徹氏の活動は、一人の人間が持つ無限の可能性を示していると言えるでしょう。医学と文化、そして歴史を結びつける氏の知的な探求心と行動力は、私たち読者にとっても、生きる姿勢を深く考えさせてくれるきっかけになるはずです。

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