私たちの食卓に欠かせない「スパイスの王様」ことコショウの価格が、今まさに大きな転換点を迎えています。2019年09月21日現在の市場動向によれば、国内のコショウ卸売価格が過去3年間でなんと7割も下落し、約12年ぶりとなる歴史的な安値を記録しているのです。肉料理や魚料理、さらには隠し味としてマルチに活躍するこの身近な調味料に、一体何が起きているのでしょうか。
この劇的な価格低下の裏側には、2014年から2016年にかけて発生した世界的な価格高騰が深く関係しています。当時、コショウは非常に高い収益が見込める「お宝作物」として注目を浴びました。その結果、ベトナムやマレーシア、インドネシアといった東南アジアの生産者たちが、それまで栽培していた天然ゴムやタピオカの原料であるキャッサバから、こぞってコショウへと転作を進めたのです。
コショウの木は、苗を植えてから収穫が可能になるまで約3年から4年の歳月を要します。つまり、高値に沸いた数年前に植えられた木々が、2017年ごろから一斉に実をつけ始めたというわけです。2018年の世界生産量は53万トンに達し、わずか4年前と比較して約5割も増加しました。供給の波が、かつてない勢いで市場に押し寄せている状況といえるでしょう。
需要を上回る供給過剰の波と家庭用価格の行方
一方で、世界的なコショウの需要自体は決して衰えていません。新興国での人口増加や食の欧米化が進み、肉や魚を使った料理にスパイスを多用する文化が浸透しています。2018年の需要は4年前より2割以上増えましたが、それ以上に供給が伸びすぎた結果、年間で約7万トンもの供給過剰が発生しました。現在、産地には出荷されない在庫が積み上がっていると見られています。
SNS上では「最近、業務用のコショウが安くなっている気がする」「自炊派にはありがたいニュース」といった声が上がる一方で、家計への直接的な恩恵を疑問視する意見も散見されます。実は、加工業者の取引価格は年初から2割近く下がっているものの、スーパーなどで見かける家庭用商品の小売価格にはまだ反映されていません。これは、商品の原価に占める物流費や容器代の割合が大きいためです。
個人的な見解としては、生産者が他作物への転作をためらっている現状、この安値傾向は当面続くのではないかと考えています。米中貿易摩擦の影響で他の農産物価格も低迷しており、農家は「次に何を植えればいいのか」という苦境に立たされています。私たち消費者が美味しい料理を楽しめる裏側で、生産現場が疲弊しすぎないような持続可能な取引の形が、今後はより一層求められるはずです。
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