熊川哲也が挑む究極の「カルミナ・ブラーナ」!Bunkamura30周年を飾る衝撃のステージを徹底解説

2019年09月27日、東京・渋谷のBunkamuraにて開館30周年を祝う特別な公演が幕を開けました。芸術監督を務める熊川哲也氏が、自ら率いるKバレエカンパニーのために書き下ろした渾身の新作「カルミナ・ブラーナ」です。中世の世俗的な詩歌をベースにしたこの名曲が、熊川氏の類まれなる感性によって、全く新しいドラマチックなバレエ作品へと生まれ変わりました。

本作の鍵となるのは、カール・オルフが作曲した重厚かつ圧倒的なエネルギーを持つ音楽です。本来、この楽曲はラテン語を中心とした歌詞で構成されており、言葉の細かなニュアンスを理解するのは容易ではありません。しかし、その力強いリズムと和声は、聴く者の魂を直接揺さぶります。この音楽の迫力に、いかにして視覚的な物語を融合させるかが、振付家としての最大の挑戦と言えるでしょう。

熊川氏が導き出した解釈は、実に独創的でスリリングなものでした。運命の女神フォルトゥーナと悪魔の間に生まれた息子「アドルフ」が、世界を堕落させていくという物語を構築したのです。アドルフの手によって、瑞々しい春は生命力を奪われ、愛の女神ヴィーナスや敬虔な宗教者までもが底知れぬ欲望の渦に飲み込まれていく様子は、観客に人間の内なる闇を突きつけます。

この「アドルフ」という名が1937年のドイツでの初演背景を彷彿とさせる点も、非常に興味深い演出と言えるでしょう。直接的な暴力ではなく、人間の心に潜む悪意を引き出すような恐怖が、舞台全体を支配していきます。SNS上でも「音楽の圧倒的な圧力と、踊りによる狂気の表現が重なり合い、息をするのも忘れるほどだった」といった驚きの声が数多く寄せられています。

今回、主役のアドルフに抜擢された若手の関野海斗さんは、軸のぶれない高速回転などの高度なテクニックを披露しました。清純さを残しながらも、無自覚に悪を撒き散らす恐ろしさを体現したその姿は、まさに新星の誕生を感じさせます。対するフォルトゥーナ役の中村祥子さんは、我が子に滅ぼされながらも蘇り、秩序を回復する女神を圧倒的な存在感で演じきりました。

特筆すべきは、オーチャードホールの舞台を三方から囲む巨大な合唱団の存在です。彼らが放つ歌声は、舞踊を包み込む壁となって反響し、視覚と聴覚が完全に一体化する奇跡的な空間を創り出していました。アンドレア・バッティストーニ氏が指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の熱演も相まって、これまでにないスケールの総合芸術が完成したといっても過言ではありません。

個人的な見解を述べさせていただきますと、今回の演出は単なる古典の再現に留まらず、人間の本質に迫る現代的なメッセージ性を強く感じました。美しいバレエの中に「悪」や「崩壊」をこれほど鮮烈に組み込めるのは、熊川哲也氏という不世出の天才だからこそ成し得た業でしょう。クラシックファンのみならず、全ての表現者に見てほしい、歴史に残る一夜となりました。

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