知る人ぞ知る「海のジビエ」!北海道羅臼で守り抜かれる希少なトド肉の食文化と猟師の葛藤

北海道の最果て、知床半島に位置する羅臼町。ここでは、荒波を泳ぐ巨大な海獣「トド」を食すという、全国的にも極めて珍しい文化が今なお息づいています。かつては貴重なたんぱく源として地域を支えたトド肉ですが、2019年10月05日現在、それは「海のジビエ」として感度の高い観光客やグルメな旅人たちの視線を集める存在となりました。

SNS上でも「トドを食べるなんて想像できない!」「意外とクセがなくて美味しい」といった驚きの声が広がっています。一見すると強烈な個性を放つこの食材には、実は知床の厳しい自然と共生してきた人々の知恵と、伝統を絶やさぬための切実なドラマが隠されているのです。

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五感を刺激する野趣あふれる味わい!トド料理の魅力に迫る

羅臼の名所「純の番屋」では、名物の「トド焼き」を700円で楽しむことができます。運ばれてきた皿の上には、一瞬たじろぐほどの濃い褐色をした肉が並びますが、口に運べばその評価は一変するでしょう。臭みは驚くほど抑えられており、クジラやシカ肉に近い濃厚な旨味、そして牛肉のようなしっかりとした食感が特徴です。

噛みしめるほどに広がるレバーのような野趣に富んだ後味は、まさに野生の生命力をいただく感覚と言えます。店主の舟木恵美子さんによれば、ニンニクやジンギスカンのタレを使い、濃いめの味付けで仕上げるのが美味しくいただく秘訣だそうです。

海生哺乳類であるトドは、潜水のために筋肉中へ大量の血液を蓄えています。そのため、適切な処理を怠ると血が焦げて獣臭さが際立ってしまいます。羅臼では捕獲後、内臓を除去してから半月ほど海中に沈めて血抜きを行うという、手間暇かけた伝統的な技法を守り続けています。この丁寧な仕事こそが、観光客を唸らせる味の決め手なのです。

「海のギャング」か「守るべき資源」か。揺れる漁師の想い

一方で、トドは漁師たちから「海のギャング」と忌み嫌われる側面も持っています。10月から5月にかけてロシア海域から回遊してくる彼らは、定置網を食い破り、中の魚を食い荒らします。2017年度の北海道全体での被害額は約11億円にものぼり、羅臼町だけでも1億円を超える打撃を受けているのが実情です。

かつては自衛隊が機銃掃射で駆除に当たった時代もありましたが、現在は国指定の「準絶滅危惧種」として保護の対象にもなっています。準絶滅危惧種とは、現時点では絶滅の危険度は低いものの、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性がある種を指す専門用語です。この「害獣」と「保護動物」という二つの顔が、トドを巡る問題を複雑にしています。

現在、羅臼で唯一のトド撃ちとして活動するベテラン猟師、須藤公男さんは、揺れる船上から一瞬の隙を突いてライフルを放ちます。トドも非常に賢く、人家がある方向へ逃げれば撃たれないことを学習しているといいます。まさに人間と野生動物の知恵比べが、今日も知床の海で繰り広げられているのです。

かつて30人いたハンターも、今や須藤さん一人。燃料代などは自己負担という厳しい環境ですが、彼は若手4人の育成に乗り出しました。ただ排除するのではなく、命を尊び、文化として次世代へ繋ぐ。この「海のジビエ」という食文化は、私たちが自然とどう向き合うべきかを問いかける、羅臼からの熱いメッセージなのかもしれません。

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