2019年10月08日、神奈川県立近代美術館の籾山昌夫氏が紹介する「ポーランドポスター十選」の第7回は、見る者を一瞬で釘付けにする強烈な一作です。今回スポットが当てられたのは、鬼才ロマン・チェシレーヴィチが1974年に手掛けた、オペラ「ルダンの悪魔」の公演ポスターとなります。
SNS上では「デザインの持つ禍々しさと美しさが共存している」「歴史的背景を知るとより一層深く刺さる」といった驚きと称賛の声が上がっています。本作の背景には、1630年代にフランスのルダンで実際に起きた、ウルスラ会女子修道院での「集団憑依(ひょうい)事件」という衝撃的な歴史が潜んでいるのです。
この陰惨な事件は、イギリスの文豪オルダス・ハクスリーによって1952年に小説化され、さらに劇作家ジョン・ホワイティングが1961年に戯曲として世に送り出しました。そしてポーランドを代表する現代音楽の巨匠、クシシュトフ・ペンデレツキが1968年から1969年にかけて不協和音を駆使した前衛的なオペラとして完成させたのです。
世界を魅了したグラフィックの魔術師
作者のチェシレーヴィチは、1960年代にパリへ移住し、世界的ファッション誌「ELLE」や「VOGUE」のデザインを担った稀代のアートディレクターでもあります。彼は雑誌のレイアウトにおいて、写真とタイポグラフィ(文字を適切に配置して読みやすく、美しく見せる技術)を融合させる革新的な手法を確立しました。
1971年にフランスへ帰化した彼は、かの有名なポンピドゥー・センターの設立準備にも深く関わりました。特に1978年の「パリ―ベルリン展」などでは、ロシア構成主義(幾何学的な形や工業的な素材を用いて、社会的な実用性を追求する芸術運動)の影響を受けた先鋭的なデザインで世界を驚かせたのです。
私が思うに、このポスターの凄みは単なる告知媒体を超え、人間の内面に潜む狂気を一枚の紙に凝縮した点にあります。1200枚という限られた数しか刷られなかったこの1974年の作品は、現代の視覚伝達デザインにおいても、色褪せない力強いメッセージを放ち続けていると言えるでしょう。
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