日本全国の自治体が、街から犬や猫があふれるのを防ぐため、飼い主によって手放されたり、野良になったりしたペットを保護する活動に力を注いでいます。その中で、近年特に深刻な問題として浮上しているのが、多頭飼育への対応です。無計画に頭数を増やしてしまい、その結果、世話をしきれなくなり飼育環境が劣悪になる「多頭飼育崩壊」が全国で顕在化しており、行政の対応が喫緊の課題となっている状況です。この背景には、一部ペット業者の過度な営利追求や、安易な気持ちでペットを迎え入れる消費者の姿勢も深く関わっていると考えられます。
2019年6月1日、神奈川県平塚市の田園地帯に、それまでの動物殺処分施設を一新した「動物愛護センター」が誕生いたしました。黒岩祐治知事が「処分から生かすための施設へ」と掲げたこのセンターは、稼働開始からわずか3日で、早速10匹の猫を保護するという事態に直面しました。これは、まさに繁殖しすぎて飼い主が飼育を断念した多頭飼育崩壊の典型的なケースであったといえるでしょう。
同センターの上條光喜愛護・指導課長は、猫の多頭飼育崩壊が以前にも増して深刻化している現状を指摘しています。猫は、犬と異なり、室内だけで飼育がしやすく、鳴き声も目立ちにくいため、知らない間に頭数が増えてしまう多頭飼育が起きやすい要因となっているのです。この状況に対処するため、神奈川県は条例を改正し、2019年10月からは10頭以上の犬や猫を飼育する際に、自治体への届け出を義務づけることになりました。これは、多頭飼育の実態を把握し、崩壊を未然に防ぐための重要な一歩となるはずです。
多頭飼育崩壊などで自治体が保護するケースで特に多いのが、猫、それも子猫です。子猫は生後2~3カ月までの間にきめ細かな世話としつけをしないと、新しい飼い主に引き取ってもらいにくくなってしまいます。そこで、埼玉県では動物保護ボランティアの一環として、2019年2月から「ミルクボランティア」を立ち上げました。このボランティアは、県の保健所などが保護した、特に手がかかる子猫の世話を専門に引き受ける役割を担っています。
埼玉県に先立ち、2017年度にミルクボランティアを導入した千葉県では、すでに43人が登録しています。その効果は顕著で、導入前は年間1,000頭を超えていた子猫の殺処分数が、2018年度には369頭へと、約3分の1にまで減少しました。千葉県の動物愛護センターの担当者は、「ボランティアをさらに増やし、この効果をより高めていきたい」と意気込みを語っています。こうしたボランティアの存在は、自治体の対策を支える重要な柱となっているのです。
一方、東京都内では猫の飼育頭数が推定で100万頭以上とされ、ペットショップなどの「第一種動物取扱業」(ペットを販売したり、預かったり、訓練したりするなど、営利目的で動物を取り扱う事業のこと)の業者数は、2015年度時点で約4,500軒と、10年前の約2倍に増加しています。都内では、ペットホテルやトリミング業者の伸びが目立っていますが、一部のペットショップや「猫カフェ」などでは、過度な営利追求の末に、狭い空間にペットを過密状態にするなど、劣悪な飼育環境が問題となり、行政処分を受ける業者も出てきました。
また、猫や犬の「かわいい」という感情だけで、深く考えずにペットを購入する、いわゆる衝動買いをした消費者の中には、結局は飼育を放棄してしまう事例も見受けられます。SNS上でも、「多頭飼育崩壊のニュースを見るたびに胸が痛む」「動物愛護センターの取り組みは素晴らしいが、問題の根本は飼い主の責任感の欠如では?」といった意見が多く投稿されており、この問題に対する社会的な関心の高さをうかがい知ることができます。
責任ある飼い主を増やしていくためには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。東京都は、「猫を飼うということは愛情だけではなく責任も必要となる」というメッセージを伝えるため、猫の飼育を検討している家族向けの動画を制作し、飼うことへの「責任」を強く意識してもらうことを目指しています。また、神奈川県の動物愛護センターでは、譲渡をする前に、家の中を模した専用の部屋で、希望者が実際にペットと触れ合い、相性を慎重に確かめた上で引き取ってもらう仕組みを導入しています。これは、安易な引き取りを防ぎ、ミスマッチによる飼育放棄を防ぐための配慮でしょう。
さらに、超党派の議員連盟が提案し、衆院を通過した動物愛護法改正案では、「生後8週間を経過しない犬猫の販売を原則禁止」する方針が打ち出されました。これは、幼すぎる段階での親からの引き離しや、劣悪な環境での繁殖を防ぐことを目的としており、法規制によって多頭飼育や飼育放棄を食い止める狙いがあります。
しかし、私見ですが、法規制や自治体の対策だけでは、この問題の根本的な解決には限界があるのではないでしょうか。動物と共生していく上で、生き物を飼うことへの飼い主一人ひとりの強い責任と覚悟が不可欠となります。愛情と同時に、命を預かる重責を理解し、最後まで面倒を見るという強い意思を持つことが、多頭飼育崩壊や飼育放棄を防ぐための最も重要な鍵となることでしょう。
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