クラフトビールの先駆者として知られる新潟麦酒が、今まさにウイスキーの聖地とも言える米国市場で熱い視線を浴びています。2018年に本格始動したばかりのウイスキー事業ですが、その勢いは凄まじく、生産されるボトルの約9割が瞬く間に海外へと旅立っているのです。特に「ジャパニーズウイスキー」への関心が高まるアメリカでは、現地のホテルチェーンなどから共同開発のオファーが相次いでおり、新潟の小さな蒸留所が世界のバーカウンターを彩り始めています。
サンフランシスコの洗練されたレストランに並ぶ「越ノ忍(こしのしのぶ)」は、力強い「忍」の文字と武士の姿を描いたラベルが圧倒的な存在感を放っています。SNS上でも「ラベルのインパクトに負けない深みがある」「ミズナラの香りがエキゾチックで素晴らしい」といった好意的な投稿が散見され、デザインと中身の両面でファンの心を掴んでいるようです。こうした反響は数字にも表れており、2019年10月時点の月産5万本のうち、約4割が米国向けという驚異的なシェアを記録しています。
世界を魅了する「ミズナラ樽」の魔法と独自のブレンド技術
「越ノ忍」の最大の特徴は、厳選された原酒を日本固有の「ミズナラ樽」で追加熟成させる点にあります。ここで言う「原酒」とは、蒸留されたばかりのアルコール度数の高いお酒のことで、これを新潟の地で絶妙に配合(ブレンド)していきます。ミズナラは欧米のオーク樽とは異なり、お香や白檀のようなオリエンタルな香りを付与することで知られ、この独特な風味が「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション2019」での金賞受賞という快挙に繋がりました。
1997年の創業以来、日本で初めて瓶内二次発酵によるビール造りを成功させた宇佐美健社長の挑戦心は、ウイスキーという新たな舞台でも遺憾なく発揮されています。ビールが鮮度を尊ぶ「動」の酒ならば、熟成によって価値を高めるウイスキーは「静」の酒と言えるでしょう。この対照的な性質を持つ2つの事業を両立させることは、一見困難に見えますが、宇佐美社長は「時間が経つほどに味わいが増すウイスキー造りは、企業としての深みにも繋がる」と確信に満ちた表情で語ります。
ロシア進出とOEM拡大で描く2020年への成長戦略
新潟麦酒の視線は、さらにその先の世界を見据えています。2020年9月期に向けては、自社ブランドの強化に留まらず、相手先ブランドによる生産を意味する「OEM」にも注力する方針です。これは世界的なホテルチェーンが自社専用のウイスキーを新潟麦酒に発注するもので、同社の技術力が国際基準で認められた証左と言えます。新潟工場の生産ラインを増強する一方で、ロシアのウラジオストクにも合弁工場を建設する計画が進んでおり、現地でのビール・ウイスキー併売という大胆な一手が打たれようとしています。
一編集者の視点から見ても、地方の小規模なメーカーが「日本らしさ」を武器に、情報のスピードが速い現代のグローバル市場でこれほど早く結果を出している点は驚嘆に値します。単なる流行に便乗するのではなく、これまでのビール造りで培った発酵と熟成のノウハウを、ウイスキーという長期スパンの商品に見事に昇華させている点に、この企業の真の強さを感じます。2019年9月期の売上高3億4000万円から、翌期には5億円を見込むという右肩上がりの成長は、決して夢物語ではないでしょう。
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