2019年10月16日現在、若者の車離れが叫ばれて久しいなか、自動車用品業界は大きな転換期を迎えています。そんな逆風をものともせず、女性客をなんと以前の2倍にまで増やすことに成功した画期的な店舗が存在しているのをご存知でしょうか。
それが、東京の江東区に誕生した「A PIT オートバックス東雲」です。約20年前に大型店の先駆けとしてオープンした東雲店を、昨年の秋に全面リニューアルしました。カー用品店といえば、男性中心の無骨なイメージを抱く方も多いかもしれません。
しかし、この新しいオートバックスは全く異なります。SNS上でも「おしゃれすぎてオートバックスに見えない」「カフェ目的でふらっと寄れるのが最高」といった驚きや絶賛の声が次々と投稿されており、これまでの常識を覆す反響を呼んでいるのです。
「ピットイン」の概念を変えた画期的なカフェ空間
店舗の核となるコンセプトは「クルマもヒトもピットイン」です。モータースポーツにおいて車が給油や整備を行う場所である「ピット」という専門用語を、人間がひと休みしてエネルギーを補給するくつろぎの空間へと見事に昇華させました。
平日の朝から、店内の中央に設けられたカフェエリアでは、コーヒーを片手に雑誌を開く女性や、パソコンで作業をする若者の姿が見られます。本棚の周りには「旅」や「自然」など8つのテーマに沿ったカー用品が自然な形で配置されているのも特徴的と言えるでしょう。
コモディティ化の波を乗り越えるライフスタイル提案
なぜ、このような大胆な変革が必要だったのでしょうか。実は2000年代以降、自動車が単なる移動手段として「コモディティ化」し始めました。これは、どの商品も機能に大差がなくなり、消費者にとっての特別な価値が薄れてしまう現象を指しています。
その結果、カーナビなどの売れ行きが鈍り、業界全体が2011年頃から客数減少の苦境に立たされていました。そこから脱却するため、ターゲットをファミリー層へと大きくシフトし、単なる物売りから「車のあるライフスタイル」の提案へと舵を切ったわけです。
空間デザインにも妥協がありません。著名なデザイン事務所が手掛けた店内は、白や黒を基調としたシックなモノトーンで統一されています。そこにオートバックスの象徴である鮮やかなオレンジ色を差し色として用いることで、親しみやすさを演出してくれます。
もちろん、車好きの心も忘れていません。1階の整備エリアはクールな雰囲気が漂い、3階には専門スタッフが常駐しています。ここでは車の性能を上げる「チューニング」や、外観を好みに飾る「ドレスアップ」の相談も気軽に行える設計となっています。
さらに、近隣で不足していた洗車場を新設したほか、店内には絵本やおもちゃが揃うキッズコーナーも充実させました。次世代のファンを育てるためのドライブシミュレーターも導入しており、あらゆる世代が楽しめるテーマパークのような工夫が凝らされているのも見逃せません。
「トキ消費」の時代を勝ち抜くこれからの店舗のあり方
一人のメディア編集者として、私はこの戦略に強く共感します。現代は、単に物を所有するだけでなく、家族や友人と過ごす時間や体験に価値を見出す「トキ消費」の時代です。A PITの取り組みは、まさにこの現代のニーズを的確に捉えた素晴らしい挑戦だと感じています。
車に乗る人も乗らない人も、ふらりと立ち寄ってワクワクできる場所。そんな新しい形のカー用品店が、これからの小売業におけるひとつの大正解になるのではないかと確信しています。皆さんもぜひ一度、この革新的な空間へと足を運んでみてはいかがでしょうか。
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