科学技術の発展に欠かせない「ヘリウム」が、今かつてない危機に瀕していることをご存知でしょうか。2019年10月21日、東京大学はこの深刻な供給不足を打破するため、学外の研究機関からヘリウムガスを受け入れて再液化する画期的な支援事業を開始しました。
そもそもヘリウムは、マイナス269度という極低温の世界を作り出すために必須の資源です。物質の電気抵抗がゼロになる「超電導」現象の研究や、医療現場で活躍するMRI(磁気共鳴画像装置)の冷却など、現代社会のインフラを支える極めて重要な役割を担っています。
しかし、日本はその全量を米国やカタールといった海外からの輸入に依存しているのが現状です。昨今の世界的な需要拡大に加え、米国の大手生産者が自国内の供給を優先したことで、日本国内の研究現場ではヘリウムが手に入らず、実験の中断を余儀なくされるケースが相次いでいます。
SNS上でも「研究室のヘリウムが底をつきそうだ」「価格が上がりすぎて予算を圧迫している」といった切実な声が散見されており、まさに日本の科学技術の根幹を揺るがす死活問題となっていました。こうした事態を受け、東大物性研究所(千葉県柏市)が救いの手を差し伸べたのです。
高騰する価格と再利用の重要性
同研究所の調査によれば、一般的な研究機関が購入するヘリウムの価格は、現在1立方メートル当たり4000円前後にまで跳ね上がっています。これはわずか1年間で2割から3割も上昇した計算になり、研究現場にとっては極めて重いコスト負担となっているのは間違いありません。
ここで鍵となるのが、一度使用してガス状になったヘリウムを再び液体に戻す「再液化」という技術です。東大はこれまで学内限定でこの装置を運用してきましたが、今後は液化設備を持たない外部の機関にも門戸を開き、日本全体でのヘリウムリサイクルを強力に推進していく方針です。
利用者は輸送費などの実費を負担する必要がありますが、供給自体が断られるリスクを考えれば、この支援は砂漠の中のオアシスのような存在と言えるでしょう。資源を使い捨てるのではなく、国内で循環させる仕組みを構築することは、資源小国である日本が生き残るための賢明な戦略です。
個人的な見解を述べさせていただくと、こうした「知のインフラ」のシェアリングエコノミーこそ、今の日本に求められている姿勢ではないでしょうか。限られた資源を奪い合うのではなく、高度な設備を持つ拠点が周囲を支えることで、国全体の研究レベルを維持する。この取り組みは非常に意義深いものです。
今回の東大の決断が呼び水となり、全国各地で資源の相互扶助が広がることを願って止みません。2019年10月21日から始まったこの小さな一歩が、将来のノーベル賞級の発見を守る大きな盾となることを、私たちは心から期待しています。
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