かつて街を照らすエネルギーを生み出していた巨大な発電所が、今や感性を刺激する芸術の拠点へと姿を変えています。2019年10月23日、建築評論家の五十嵐太郎氏が紹介するのは、中国・上海の臨海部にそびえ立つ「上海パワーステーション・オブ・アート(PSA)」です。この美術館は、2010年5月1日に開幕した上海万博の「未来館」をルーツに持っています。閉幕後、かつての産業遺産は現代美術を専門に扱う公立美術館として、鮮やかな第2の人生を歩み始めました。
PSAの最大の特徴は、1985年に建て替えられた発電所の構造を大胆に活かしたリノベーションにあります。外観はあえて当時の面影を色濃く残しており、空に向かって真っ直ぐ伸びる巨大な煙突が、かつての工業地帯の記憶を今に伝えているでしょう。SNS上では、その無骨でクールな佇まいが「インダストリアルな美学の極致」として、写真映えを求める若者たちの間でも大きな話題を呼んでいます。歴史を壊すのではなく、継承しながら新しい価値を吹き込む姿勢には、深い敬意を感じざるを得ません。
巨大な吹き抜けと煙突が織りなす、現代美術館の新しいカタチ
設計を手掛けたのは中国の「オリジナル・デザイン・スタジオ」で、2012年10月1日に華々しくオープンを迎えました。内部に足を踏み入れると、ロンドンのテート・モダンを彷彿とさせる圧倒的な吹き抜け空間が広がっています。ここでいう「リノベーション」とは、古い建物の骨組みを維持しつつ、用途を現代に合わせて作り変える手法を指します。既存の建物を補強しながら7階建ての展示空間へと変貌させた技術力は、まさに建築界の驚異といえるのではないでしょうか。
館内には複雑な動線や開放的な屋外テラスが配され、来場者は迷宮を彷徨うように自由にアートを探索できます。特筆すべきは、象徴的な煙突の内部までもが円形の展示室として活用されている点です。本来なら負の遺産となりかねない巨大な煙突を、ブリッジで繋ぎ、体験型の空間へと昇華させたアイデアには脱帽します。私自身、こうした「場所の記憶」を閉じ込めた建築こそが、デジタル化が進む現代において、人々の心に最も強く響くリアルな体験を提供できるのだと確信しています。
中国本土初の公立現代美術館として誕生したPSAは、国際的な芸術祭「上海ビエンナーレ」のメイン会場としても機能しています。ビエンナーレとは「2年に1度」開催される国際美術展のことで、世界中のクリエイターが集う重要なプラットフォームです。歴史的な重厚感と最先端の表現が交差するこの場所は、アジアのアートシーンを牽引する熱いエネルギーに満ちあふれています。古い発電所が再び「文化の発電所」として稼働し続ける姿は、都市再生の理想的なモデルケースといえるでしょう。
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