かつて、経済の教科書が教えてくれた黄金のサイクルに、今、決定的な異変が起きています。それは「家計が貯蓄し、その資金を企業が借りて投資を行い、社会を豊かにする」という伝統的な循環の崩壊です。2019年11月10日現在、日米欧の経済圏では、本来「借金をして投資する」はずの企業が、逆にお金を貯め込み続けるという、奇妙な「カネ余り」現象が定着してしまいました。
SNS上では「将来が不安で貯金せざるを得ない」「企業が投資しないのは日本の未来を信じていないからでは?」といった悲痛な声や、政府の膨れ上がる借金に対する不安が渦巻いています。私たちは今、まさに通説が通用しない未知の経済ステージに立たされていると言えるでしょう。
企業が「貯蓄家」に変貌した理由と産業構造の変化
「資金循環」という言葉をご存知でしょうか。これは、経済を「家計」「企業」「政府」「海外」の4つのグループに分け、どこからどこへお金が流れたかを分析する指標のことです。驚くべきことに、日米欧の企業部門は2002年頃から、稼いだ利益を投資に回しきれず、手元に残す「資金余剰」の状態が続いています。2018年までの累計額は、実に10兆ドル(約1000兆円)を超えているのです。
この背景には、デジタル経済へのシフトがあります。GAFAに代表されるIT巨頭たちは、かつての製造業のような巨大な工場を必要としません。投資先が見つからないほどのお金を手にした企業が「貯蓄」に励む一方で、低成長の波が私たちの足を引っ張っています。これは、もはや一時的な不況ではなく、産業構造そのものが変わってしまった証拠なのかもしれません。
政府が吸い上げる37兆ドルの行方と未来へのリスク
企業も家計もお金を貯める中、その余った資金を一手に引き受けているのが「政府」です。過去30年で日米欧の政府が抱えた資金不足、つまり借金の累計は37兆ドルに達しました。本来なら金利が跳ね上がるはずの状況ですが、皮肉にも日欧では「マイナス金利」さえ珍しくありません。これは、国債を買いたいという需要が、政府の借金欲を上回っているという、極めて歪なバランスを意味しています。
「金利が低いなら、国はもっと借金して投資すべきだ」という大胆な意見も飛び出していますが、私はここに強い懸念を抱いています。政府が行う投資が、果たして民間企業以上に効率的で、未来の成長を担保できるのでしょうか。非効率な公共事業にお金が消えれば、生産性はさらに下がり、ツケは次世代に回るだけです。
私は、政府が単に借金を増やすのではなく、企業が再び「未来に投資したい」と思えるような、抜本的な規制緩和や新産業の育成にこそ注力すべきだと考えます。雪だるま式に膨らむ債務を「低金利だから大丈夫」と楽観視するのは、あまりに危うい賭けではないでしょうか。
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