地方で懸命に汗を流す中小・零細企業の経営者にとって、常に頭を悩ませるのが資金繰りの問題です。「新しい設備を導入したいけれど手元資金が足りない」「担保に入れられる不動産がないから、銀行から融資を断られてしまった」という声は、今や地方経済の共通の悩みと言っても過言ではありません。そんな中、岡山県総社市に拠点を置く吉備信用金庫が、これまでの金融界の常識を覆す画期的な取り組みで注目を集めています。
2019年3月31日時点での貸出金残高が619億円と、岡山県内では中規模な立ち位置にある吉備信用金庫ですが、彼らが実践しているのは、単にお金を貸すだけの関係を超えた「リレーションシップバンキング」の深化です。これは、金融機関が顧客との長期的で密接な信頼関係を築き、企業の成長を支える経営スタイルを指します。同金庫の神崎良幸常務理事は、赤字に苦しむ企業であっても、金融機関が寄り添い支えることで、確かなキャッシュを生み出せるようになると確信しています。
担保に頼らない革新的な「専用当座貸し越し」とは?
2019年4月1日から吉備信用金庫が本格的に導入したのが、「専用当座貸し越し」という融資手法です。これは、あらかじめ決めた限度額の範囲内であれば、企業がいつでも自由にお金を引き出せる仕組みを指します。一般的な個人向けカードローンに近い利便性がありますが、実は銀行側にとっては、都度の審査がないため貸し倒れのリスクが高く、通常は財務が極めて健全な優良企業にしか適用されないのが一般的でした。
しかし、吉備信金の試みは非常に挑戦的です。なんと、経営破綻の懸念がある先を含め、原則として無担保でこの融資枠を提供しているのです。企業の「商流」、つまり仕入れから販売、そして代金回収に至るまでのお金の流れを正確に把握することで、担保という「過去の資産」ではなく、事業が将来生み出す「稼ぐ力」を評価して融資を実行しています。この斬新な手法に対し、SNS上でも「これこそが地域金融のあるべき姿だ」と熱い視線が注がれています。
経営の暗闇を照らす「伴走」がもたらす劇的な改善
具体的な例を挙げれば、商品を仕入れるための資金を当座貸し越しでサポートし、その後実際に商品が売れたかどうかを口座の入金履歴から細かく確認します。こうして事業の実態を把握することで、担当者はどの事業が利益を生んでいるのかを企業側と共有できるようになります。もし売れ行きが悪化しても、すぐにビジネスマッチングや専門家派遣といった本業支援に乗り出せるため、トラブルの芽を早期に摘み取ることが可能になるのです。
2019年1月からは、清水宏之理事長自らが支店長と共に100件以上の顧客を直接訪問し、この新しい融資の形を丁寧に説明してきました。2019年10月31日現在の契約数は25件と、数字の上ではまだ始まったばかりかもしれません。それでも、破綻懸念先とされていた事業者が、数年以内に債務超過を解消できる見通しが立つほど劇的な改善を見せるケースも出始めており、そのポテンシャルは計り知れません。
私は、この吉備信用金庫の取り組みこそが、衰退が危惧される地方経済の救世主になると信じています。担保の有無で選別するのではなく、経営者の顔を見て、事業の将来性を共に育む姿勢。金融庁からも「融資はスタートライン」という高い評価を得ているこの活動は、お金という血液を地方の隅々まで巡らせる、真の情熱が宿った挑戦だと言えるでしょう。地域に根ざした「草の根」の支援が、今、確かな希望の光を放っています。
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