2019年11月27日、世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車(CRRC)が、かつてない苦境に立たされています。米国マサチューセッツ州スプリングフィールドにある同社の工場では、取引先の業者がカメラの前で「ビジネス関係は良好だ」と称賛の声を上げました。こうした異例の広報キャンペーンの背景には、激化する米中貿易摩擦の影響で、工場の存続そのものが危ぶまれているという切実な事情があるのです。
現在、米国政府は中国中車の存在を安全保障上の重大なリスクと見なしています。政府機関が中国製の鉄道車両やバスを調達することを事実上禁止する法案を、2019年内に成立させる構えを見せているからです。これは、2018年に通信大手のファーウェイなどが制裁を受けた際と同じ「国防権限法」に基づく厳しい措置となります。SNS上でも「インフラの心臓部を他国に握られるのは怖い」という警戒論が飛び交っています。
急成長の代償とサイバー攻撃への懸念
中国中車は2014年にボストンの地下鉄車両を約400台受注したことを皮切りに、シカゴやロサンゼルスなどでも次々と大型契約を勝ち取ってきました。その総額は26億ドルにものぼり、日本の川崎重工業といった名だたる競合を圧倒してきました。しかし、この急速な進出が「米国産業を弱体化させる」という反発を招きました。特に、車両を通じたサイバー攻撃の可能性については、ホワイトハウスからも厳しい目が注がれています。
「サイバー攻撃」とは、通信ネットワークを通じてコンピュータシステムに侵入し、破壊や情報の窃取を行う行為を指します。鉄道車両も現代では高度にデジタル化されているため、車両の制御システムが悪用されることへの恐怖が、法規制を後押しする形となりました。同社は「ソフトウェアは外部業者が管理しており安全だ」と主張していますが、政府の不信感を拭い去るには至っていないのが現状と言えるでしょう。
かつて中国中車の経営陣は「世界の鉄道製品の83%を担っている」と誇示し、残りのシェアも「征服する」という強気な姿勢をSNS等で見せていました。こうした野心的な発言も、米国の議員たちにとっては脅威として映ったようです。「中国製造2025」というハイテク産業の育成策を掲げる中国に対し、米国側は自国の製造業を守るために、いよいよ本格的な排除へと舵を切り始めました。
揺れる現場と編集部の視点
もし法案が成立すれば、スプリングフィールド工場は5年から7年以内に閉鎖を余儀なくされる見通しです。現場で働く労働者からは「生計を立てる手段がなくなる」と不安の声が漏れています。地域経済を潤してきた工場が、国家間の政治的な争いに巻き込まれる姿は、グローバル化が進んだ現代ビジネスの危うさを象徴しているように感じられます。
私個人の意見としては、安全保障を重視する米国の姿勢は理解できるものの、公正な競争によってもたらされた低コストで高品質なインフラ導入の機会が失われるのは、利用者にとって痛手ではないかと考えます。政治的な対立が、技術革新や地域雇用に影を落とす現状は、非常に複雑な心境を抱かざるを得ません。今後の両国の動向が、世界の鉄道産業の地図をどう塗り替えるのか、注視が必要です。
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