2019年10月の台風19号がもたらした記録的な豪雨から、1ヶ月が経過しようとしています。福島県いわき市では川の氾濫によって尊い命が失われ、多くの家庭が床上浸水という過酷な被害に見舞われました。泥水に浸かり、無残な姿となった家具や家財道具を前に、途方に暮れる被災者も少なくありません。
そんな深い悲しみの中にいる人々に、一筋の光を届けている人物がいます。同市でピアノの調律師として活動する遠藤洋さんは、水没して音を失ったピアノを再び蘇らせるために奔走しています。思い出が詰まった楽器を救いたいと願うその熱意が、今、地域の人々の心を癒やし始めています。
SNS上では「諦めていたピアノが直るかもしれないなんて、奇跡のようです」といった感動の声や、「東日本大震災を乗り越えた技術が今また誰かの救いになっている」と、遠藤さんの活動を支援するメッセージが数多く投稿され、大きな反響を呼んでいるのです。
不可能を可能に変える調律師の強い使命感
遠藤さんはかつて、東日本大震災の津波で海水に浸かったグランドピアノを修復した実績を持つ「再生のスペシャリスト」です。当時は専門家からも修理は不可能だと宣告されたほど絶望的な状態でしたが、彼は見事にその音色を取り戻しました。今回も、その確かな技術を信じる人々から多くの修理依頼が舞い込んでいます。
「調律師」とは、ピアノの弦の張りを調整して音程を整えるだけでなく、内部の複雑な機構をメンテナンスする専門職です。水害に遭ったピアノは、木材の膨張や部品の腐食が進むため、非常に繊細な作業が求められます。遠藤さんは「音楽の力で皆さんに元気を届けたい」と、その表情に強い決意を滲ませていました。
涙の泥水から笑顔へ!5歳から愛用した大切な相棒
いわき市に住む主婦の鈴木智子さんも、遠藤さんに救われた一人です。2019年10月の被災直後、変わり果てた部屋の中で横倒しになり、泥を被った愛用のアップライトピアノを見つけた彼女は、思わず涙を流しました。5歳の頃からずっと寄り添ってきた大切な楽器は、鍵盤に泥が詰まり、全く音が出ない状態だったのです。
諦めかけていた時、遠藤さんの存在を知った母親が連絡を取りました。ピアノの状態を丁寧に確認した遠藤さんが告げた「修理は可能ですよ」という言葉に、鈴木さんは夜も眠れないほど喜んだといいます。たとえ完全に以前と同じ音には戻らなくても、共に歩んできた人生の記憶を繋ぎ止めたいという願いが、そこには込められています。
思い出を繋ぐ修理作業とこれからの歩み
現在、遠藤さんの倉庫には、修理を待つ10数台のピアノが並んでいます。一台ごとに損傷の度合いが異なるため、すべてを解体して部品を一つひとつ交換していく地道な作業が続きます。持ち主それぞれの歩みが刻まれたピアノに向き合うことは、その人の人生そのものを大切に扱うことに他なりません。
被災地が本当の意味で復興を遂げるには、住まいの再建だけでなく、こうした心の拠り所となる文化の再生が不可欠だと私は考えます。遠藤さんのような職人の存在は、被災者に「また前を向こう」と思わせる大きな原動力となるでしょう。福島県いわき市に再び豊かな音色が響き渡る日は、すぐそこまで来ています。
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