日本の素材産業を牽引する東レが、いよいよ次なるステージへと舵を切りました。2019年11月20日、東京都内で開かれた記者会見において、日覚昭広社長は2022年度を最終年度とする次期中期経営計画の野心的な目標を掲げました。その内容は、売上高を現在の見通しから約3割も引き上げ、3兆円の大台に乗せるというものです。世界情勢が目まぐるしく変化する中で示されたこの力強い数字に、市場関係者の間でも驚きと期待が広がっています。
SNSでは「日本の技術力が世界を圧倒するチャンスだ」と期待を寄せる声がある一方で、「米中貿易摩擦の最中での強気な目標設定に驚いた」といった慎重な意見も散見されます。現在、中国における繊維需要の落ち込みなど厳しい逆風が吹いていることは事実です。しかし、日覚社長の表情には揺るぎない自信が漲っていました。東レがこれまで種をまいてきた戦略的な投資が、いよいよ収穫の時期を迎えようとしているからに他なりません。
攻めのM&Aとグローバル投資が切り拓く新時代
この高い壁を乗り越えるための切り札となるのが、積極的なM&Aとグローバルな設備投資です。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称で、企業の合併や買収を指します。東レは2018年、約1200億円という巨額を投じてオランダの炭素繊維加工メーカーを買収しました。さらに、東欧では電気自動車に欠かせないリチウムイオン電池材料や炭素繊維の新工場建設も進めており、攻めの姿勢を崩していません。
こうした大型投資の効果により、営業利益についても2022年度には2000億円を目指す計画です。これは2019年度の見通しと比較して4割増という驚異的な成長スピードを意味します。私は、この戦略こそが素材メーカーの鑑であると考えます。単なるコスト削減ではなく、成長分野へ大胆に資金を投入し、高付加価値な製品で勝負する姿勢は、日本企業がグローバル競争で生き残るための唯一の正攻法といえるのではないでしょうか。
ボーイング減産の逆風を跳ね返す「独占供給」の底力
一方で、懸念材料として浮上しているのが米ボーイング社の動向です。同社は中型旅客機「787」の生産ラインを2020年後半から月産14機から12機へと縮小する方針を固めています。東レは「787」の主翼や胴体に使用される炭素繊維複合材を独占的に供給しているため、一見すると大きな痛手に見えます。しかし、日覚社長は「買収した海外拠点が他の航空機向けに販路を広げることで、減産分を十分にカバーできる」と明言しました。
炭素繊維は「鉄より強く、アルミより軽い」という魔法のような特性を持つ素材であり、航空機の燃費向上には欠かせません。東レが築き上げたこの圧倒的な技術的優位性は、特定企業の減産程度では揺るがない強固な基盤となっています。私は、同社が培ってきた「素材の力」こそが、不透明な世界経済を生き抜くための最強の武器になると確信しています。2022年度の3兆円達成に向け、東レの真価が問われるのはまさにこれからです。
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