2019年3月期、東京商品取引所(東商取)は発足以来で最悪となる23億円もの最終赤字を計上しました。これで4期連続の最終赤字となり、この業績悪化を受けて、一部の社外取締役からは浜田隆道社長の解任を求める声が上がりました。東商取は、経営の執行と監督を明確に分ける指名委員会等設置会社という形態を採用しており、浜田社長を除く取締役は、商品取引会社(商取会社)のトップ経験者や金融業界のOBといった社外出身者で構成されています。本来であれば、業績悪化の責任追及は当然のことと言えるでしょう。
しかし、この解任決議は幻に終わりました。背景には、東商取が推進する日本取引所グループ(JPX)との総合取引所構想を巡る、複雑な事情があったと見られます。商取業界を監督する経済産業省の意向を「忖度(そんたく)」した結果、トップ交代が回避されたという見方が強く、東商取のコーポレート・ガバナンス(企業統治)が機能不全に陥っている実態が浮き彫りになったのです。
2019年3月期決算が承認される取締役会前日の5月23日、商取会社出身の社外取締役3名が浜田社長に対し、「総合取引所を花道に後進に道を譲るべきではないか」と進退を促しました。もし社長がこれを受け入れなければ、翌日の取締役会で解任決議を提案する準備が整えられていたと言います。浜田社長は業績悪化については陳謝したものの、進退については明言を避けました。
東商取の前期の売買高は2107万枚(「枚」は最小売買単位を示す)に留まり、これは浜田社長が就任した2016年3月期と比較して2割近くも減少しています。取引手数料を主な収益源とする商品取引所にとって、取引量の低迷はまさに経営の死活問題です。貴金属の限日取引などの新規上場を試みたにもかかわらず、新たな投資資金の流入には結びつかず、浜田社長の経営手腕に対する不満は高まる一方でした。水面下では、「経営悪化の責任を取らず、新体制でも居座るのはおかしい」と批判する商取業界の重鎮も現れ、解任動議への賛同を募る動きが広がっていたのです。
トップ交代を阻んだ「総合取引所」という大義名分
にもかかわらず、5月24日の取締役会で、商取業界出身の社外取締役たちは業績悪化への批判はしたものの、解任提案は見送る決断をしました。このトップ交代を阻んだ最大の要因は、他ならぬ総合取引所の設立計画です。商品取引所の業界は、長年の悲願であった総合取引所を、2019年10月以降に東商取がJPXの完全子会社となることで実現させようとしています。
商取業界を所管する経済産業省は、総合取引所を「国の施策」と位置づけ、その円滑な実現を強く望んでいます。東商取の幹部からは、「総合取引所の議論を円滑に進めるには、浜田社長とJPXの清田瞭最高経営責任者(CEO)との良好な関係が極めて重要」との声も聞かれており、交渉窓口である浜田氏がこのタイミングで東商取を去れば、構想が頓挫するリスクが高まると考えられたのです。
商取会社の業務に関する許認可権限を持つのは経済産業省です。社外取締役たちは、トップ解任に監督官庁の理解が得られないと判断し、「許認可ビジネスである以上、お役所の機嫌を損ねたくない」という思いを強くしたと推察されます。このように、出身業界の利害関係が重なり合った結果、取締役会は経営監督機能を十分に発揮できなかったと言わざるを得ません。
一部の市場関係者やSNSからは、「4期連続赤字で社長が責任を取らないのは、上場企業としてどうなのか」「総合取引所の実現は大事だが、ガバナンスが不十分なまま進めるのは本末転倒だ」といった、東商取の企業体質に対する厳しい意見が散見されます。しかし、浜田社長自身は「総合取引所が実現し、軌道に乗るまでは私の責任」との見解を繰り返しています。
私見を述べれば、総合取引所の実現は、低迷する日本の商品先物取引市場にとって非常に重要な転換点になるでしょう。JPX傘下に入り、より多くの投資マネー流入が期待できる環境は、業界の発展に不可欠です。しかし、その大義名分のために、上場企業として最も重要なガバナンスがおろそかになった事実は重く受け止めるべきです。東商取が資本市場と直接向き合う上場企業の子会社となることは、これまで監督官庁に配慮しがちであった企業統治を、真の株主本位のものへと変革する絶好の機会になると思われます。その変革の機運を逃さず、透明性の高い経営体制を構築することが、今後の東商取、ひいては日本の商品市場の信頼回復につながるのではないでしょうか。
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