2019年6月18日、米国と中国の貿易摩擦が激化するなか、中国が対抗手段としてレアアースの輸出規制を示唆し、世界に緊張が走っています。米商務省はこれを受け、高性能磁石の材料などに使われる希少金属、レアアース(希土類)の安定供給に関する報告書を発表。国内生産の強化を急ぐ方針を打ち出しました。世界最大のレアアース生産国である中国の動向は、世界のハイテク産業にとって無視できない問題でしょう。
レアアースは、17の元素からなる特殊な金属グループです。なかでもネオジムやジスプロシウムは、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)のモーター、ドローン、家電製品などに使われる軽量で高性能な磁石の製造に不可欠な素材となっています。その用途は民生品にとどまらず、ミサイルの誘導装置や戦闘機、通信システムといった先端軍事技術にも欠かせません。米国政府が中国の動きに神経をとがらせる最大の理由は、まさにここにあります。
かつては米国やオーストラリアが主要な生産国でしたが、中国が1990年代にレアアースを**「戦略資源」と位置づけ、外貨獲得のために安値輸出を拡大した結果、価格競争に敗れた米豪の鉱山は閉山に追い込まれました。その結果、鉱石生産の7割から8割を中国が握るという、いびつな供給体制が築かれてしまったのです。この圧倒的な中国依存の構造こそが、世界のリスクの根源となっていると言えるでしょう。
この中国一強の構図がもたらした最大の事件が、2010年9月に発生した「レアアース・ショック」です。尖閣諸島海域での漁船衝突事件をきっかけに、中国が事実上の対日供給停止に踏み切ったのです。この措置により、レアアース価格は2011年夏にかけて、事件前の数十倍にまで高騰しました。資源供給を中国に大きく依存していた世界最大の買い手である日本企業は、この事態で甚大な打撃を被りました。
日本は米欧とともに中国の輸出規制を不当として世界貿易機関(WTO)に提訴し、2014年には中国側の規制や輸出税がWTO協定違反**であるとの結論が下され、是正が求められました。中国は2015年に輸出枠と輸出税を撤廃し、供給は正常化しましたが、その後の価格急落で、それまで安定確保策として在庫を積み増したり資源権益を取得したりしていた企業の中には、大きな損失を計上したところも少なくありませんでした。
日本の「脱・中国」戦略が示す供給安定化への道
市場規模が小さく、コバルトなどのレアメタルと共通する価格急変のしやすさという厄介な側面を持つレアアースですが、この市場には最近、中国系の投機マネーの流入も目立ちます。実際、投機的な売りで一時1キロあたり40ドル以下に落ち込んでいたネオジムの取引価格は、中国の習近平国家主席がレアアース主産地の江西省を視察し、「重要な戦略資源だ」と米国をけん制する発言をした途端、一気に45ドルから50ドルまで反発しました。中国がWTOで違法とされた規制や関税を再導入することは考えにくいものの、輸出管理を名目とした事実上の規制に動く可能性は依然として排除できない情勢です。
需要量が少なくても、価格が再び高騰すれば産業界全体に影響が及ぶため、日本企業がレアアース・ショック後に取った対策は、現在の米国が直面する課題に対する有効な参考例となります。その対策とは、調達ルートの多角化、使用量の削減、そしてリサイクル技術の強化という三本柱です。
例えば、ネオジム磁石の大手である日立金属は、製造した磁石を無駄なく使う技術や、中国への依存度が高かったジスプロシウムの使用量を減らす技術開発に注力しました。ジスプロシウムは高温環境下でも磁石性能を保つために必須の添加物ですが、技術革新の結果、「平均して使用量を半分ほどに削減できるようになった」といいます。これに加えてモーターなどの小型化も進んだ結果、日本のネオジム需要は、EVやHVの生産が拡大しているにもかかわらず、2018年時点で2008年比で約3割減少しているのです。これは日本の企業努力の賜物と言えるでしょう。
ベトナム、インドなど新たな供給源の開拓
また、中国以外の供給源の開拓も不可欠な取り組みです。日本はオーストラリアからの調達に加え、製造くずなどをベトナムで加工し日本へ輸入する量を拡大しました。その結果、2017年にはベトナムからのレアアース金属類輸入量が3800トン超となり、中国(3735トン)を上回るまでになったのです。さらに豊田通商は、中国への過度な依存を抑えるため、インドに設立した子会社で2016年からネオジムなど4種のレアアース生産を本格的に開始するなど、商社の取り組みも活発です。
「インドからの直接輸入だけでなく、第三国を経由して加工され日本に持ち込まれるものも多い」という状況から見ても、レアアース市場が、圧倒的な供給能力を持つ中国の**「呪縛」から完全に逃れるのは容易ではないことが分かります。しかし、省資源技術の開発や調達の多角化といった具体的な実績を中国側に示すことは、彼らが再び輸出規制などの動きに出ることへの強力なけん制になるに違いありません。
私見を述べさせていただくと、レアアース・ショックの教訓は、「特定の国に戦略資源の供給を過度に依存することの危険性」をまざまざと示しています。価格急変リスクが特定の企業に集中しないよう、企業間の連携を強化すべきです。さらに、国家備蓄を担う石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による、供給量が急減するリスクのあるレアメタルへの国家備蓄は欠かせません。欧米の関係機関と備蓄に関する情報交換や、不足時に融通しあえる国際的な連携**体制を構築することが、日本の経済安全保障の観点からも強く求められることでしょう。
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