世界的なデータ記憶装置メーカー、ウエスタンデジタル(WD)社のスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が、2019年6月18日、世界デジタルサミットの場で、同社の今後の戦略と、当時激化していた米中貿易摩擦が事業に与える影響について深く語ってくださいました。データが「生成」「保存」「活用」される量が増え続けているため、データ記憶装置の需要は極めて急速に拡大しており、長期的な見通しは非常に明るいものだと、同氏は強調されています。この成長の波に乗るため、WDは従来の単なるデータを蓄積する企業から、データを支える「インフラ」を担う企業へと進化を目指しているという、壮大なビジョンが示されました。
製品の需要動向を具体的に見てみると、データ記憶装置の主軸であるHDD(ハードディスクドライブ)市場は、大きな成長はしないものの比較的安定していると分析されています。一方で、NAND型フラッシュメモリなどを用いたフラッシュメモリー市場については、ボラティリティー(価格や需要の変動率)が高く、短期的な収益には影響があるものの、これは競合他社にも共通する力学であるとの認識を示されています。WDはHDDからフラッシュメモリーまで幅広い製品ラインアップを持っているため、この安定した需要拡大の波を確実に捉えていく姿勢です。誰がデータを所有しようとも、保存されること自体は変わらず、データを活用して価値を生み出すためには、さらなるデータが必要になるという見解は、まさに現代ビジネスの真髄を突いていると言えるでしょう。
データ需要の拡大が見込まれる分野としては、自動運転や、Netflixなどに代表される動画ストリーミングサービスを擁するエンターテインメント分野、そして通信会社などが挙げられています。さらに、データを活用して進化するヘルスケア分野や、あらゆるモノがインターネットにつながる技術であるIoT(Internet of Things)を活用したスマート工場など、未来の産業の根幹を支える領域での需要にも大きな期待が寄せられています。私は、このミリガン氏の発言から、データが単なる記録ではなく、新たな価値創造のエンジンとなっている現状が鮮明に浮かび上がってくると感じています。まさにWD社は、このデジタル時代における「血液」とも言えるデータを循環させる、不可欠な存在であると言えるでしょう。
米中貿易摩擦の複雑な影響とファーウェイ取引の一時停止
当時の最も注目すべきトピックの一つであった米中貿易摩擦が、WDに与える影響についても、ミリガンCEOは正直な見解を示されました。米中の関税措置については、WDだけでなく業界全体として、サプライチェーン(供給網)の柔軟性を活かし、中国でも生産していることで影響を最小限にとどめられるだろうとの見通しでした。しかしながら、技術は世界中で密接に絡み合っているため、中長期的には米中双方にとって良い状況ではないとし、両政府が相違を克服し、建設的な解決策を見いだすことを切に願うと語られています。
この摩擦の直接的な影響として、中国の通信機器大手であるファーウェイ(華為技術)との取引状況についても言及されました。WDは2019年4月に戦略的協力で合意したことを公表したばかりでしたが、米商務省がファーウェイを「エンティティー・リスト」(安全保障上の懸念がある外国企業を列挙した輸出規制リスト)に追加したことを受け、WDは同社との関係を見直す必要に迫られました。ミリガン氏によると、それまで良好な関係を築いていましたが、取引を一時停止している状況であり、戦略的協力も中断せざるを得ない状況に陥ったとのことです。
ファーウェイはWDにとって売上高の10%を超えないまでも「数パーセント」を占める「意義のある」顧客であり、短期的には事業への影響があることを認められています。この事態は、単一企業の問題に留まらず、米中間の地政学的な対立が、サプライチェーン全体に及ぼす影響の甚大さを如実に示していると言えます。SNSでもこのニュースは大きく取り上げられ、「WDも影響を受けるのか」「米国の技術覇権争いの煽りを受けている」といった懸念や、「この規制が長期化すれば、WDの業績にも深刻な影を落とすだろう」という指摘が散見され、当時の市場の動揺を物語っています。
東芝メモリとの良好な関係と今後の展望
また、日本企業との関係についても触れられました。WDは、かつて協業先の東芝と東芝メモリ(当時)との間に厳しい時期があったことを認めつつも、現在は関係が良好で結束が強いものになっていると強調されました。特に、当時上場が予定されていた東芝メモリについては、「支持したい。すばらしいことだ」と前向きな姿勢を示されています。これは、厳しい時期を乗り越えて、グローバルな競争力を維持するために、技術提携や協力関係が不可欠であるという認識の表れであると考えられます。
スティーブ・ミリガン氏は、米デルなどを経てWDに入社し、後に日立グローバルストレージテクノロジーズの社長兼CEOを務め、同社がWDに買収された後、2013年からWDのCEOに就任された人物です。HDDとフラッシュメモリという二つの大きな技術潮流を経験し、常にデータストレージ業界の最前線に立ってきた、まさに「データの巨人」と呼ぶにふさわしい経歴をお持ちです。彼のリーダーシップのもと、WDがデータインフラを担う企業へと進化し、この激動の時代を乗り越えていく姿に、引き続き注目していくべきでしょう。
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