2019年5月、米中貿易摩擦の激化は、アジアの株式市場に激しい警戒感をもたらし続けています。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置という前例ができたことで、市場は次に制裁の標的になる「第2のファーウェイ」はどこかと、神経質に物色を始めている状況です。特に、米政府が禁輸措置を検討していると報じられた中国の監視カメラ大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)といった企業の株価は、この2週間でそろって1割以上も値を下げました。
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの王穎氏も、ハイクビジョンが最先端の監視カメラを製造する上で、米国製の半導体という欠かせない部品を使用していることを挙げ、「業務リスクになる」と強く指摘しています。これは、ハイテク分野において米国技術への依存度が高い企業は、その政治的なリスクを常に抱えるという、米中分断の現実を突きつけていると言えるでしょう。私も、この動きは、中国のハイテク企業が、サプライチェーンにおける「脱米国」を加速させるきっかけになると見ています。
一方で、市場は、この米中衝突から恩恵(おんけい)を受ける銘柄、いわゆる「漁夫の利」を得る企業も探し始めています。その最も象徴的な例が、レアアース(希土類)関連銘柄の急騰です。中国でレアアースを生産する江西金力永磁科技の株価は、習近平(シー・ジンピン)国家主席が視察に訪れたというニュースを受けて、わずか2週間で2倍以上に急騰しました。レアアースとは、電気自動車やハイテク機器に不可欠な希少な金属のことで、中国が世界の生産の多くを占めています。
この株価急騰の背景には、中国政府が対米交渉においてレアアースを「切り札」、つまり取引材料に使うのではないかという観測が広がり、政府の支援が期待できるという思惑があります。これは、米国の制裁が、図らずも中国の特定の産業を活性化させるという、皮肉な現象を生み出していると言えるかもしれません。
「漁夫の利」の最右翼:サムスン電子の計算
そして、もう一つ、市場の注目を集めているのが、韓国のサムスン電子の動向です。サムスン電子はファーウェイの半導体サプライヤーの一つでありながら、この2週間での株価の下落は1.8パーセントに留まっています。その理由は、単に「ファーウェイへの供給が減っても、自社製のスマートフォンに半導体を回せば済む」(韓国野村証券)というだけではありません。
米モルガン・スタンレーは、「ファーウェイがスマホ市場でシェアを失えば、その最大のライバルである世界最大手のサムスンが最も大きな利益を得る」と指摘しています。つまり、ファーウェイへの制裁は、サムスンにとって市場シェア拡大の絶好の機会となる可能性があるのです。私も、この米中衝突が、サムスン電子というアジアの巨大企業に、予期せぬ追い風を吹かせているという現実は、非常に興味深い事象であると感じています。
SNSでは、「ハイクビジョンも制裁対象になったら、世界の監視カメラ市場はどうなるのか」「レアアースが交渉の材料になるのは怖い」といった、国際情勢の不安定化への不安が広がっています。米国の対中制裁は、単なる貿易の摩擦に留まらず、アジアのハイテク産業のサプライチェーン、そして地政学的な優位性をも一変させる、巨大な転換点を生み出していると言えるでしょう。
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