2019年6月27日の米株式市場において、ダウ工業株30種平均は小幅に続落しました。週末に控えた米中首脳会談を前に、投資家の間では様子見ムードが漂っていますが、首都ワシントンでは、ある巨大な交渉が熱を帯びています。それは、ソフトバンクグループ傘下の米携帯通信4位「スプリント」と、同3位「TモバイルUS」による世紀の合併劇です。この合併に関しては、米連邦通信委員会(FCC)からの承認にはメドがついたものの、もう一つの難関である米司法省との交渉が難航していました。
司法省は、合併によって市場の競争が失われることを懸念し、追加の資産分離などを求めているとされています。そんな中、この膠着状態を打破する鍵を握る人物として、意外な名前が急浮上しました。米衛星テレビ大手「ディッシュ・ネットワーク」のチャールズ・アーゲン会長です。実は、彼こそが今回の合併劇における最大のトリックスターとなる可能性を秘めているのです。
かつての「天敵」が救世主に変わる皮肉
「アーゲン氏が合併の救世主になるとは、なんという皮肉だろうか」。米通信業界のアナリストたちの間では、驚きとともにそんな声が上がっています。SNS上でも、「昨日の敵は今日の友とはこのことか」「ビジネスの世界は小説より奇なり」といった、この劇的な展開に対する反響が相次いでいるのです。なぜなら、アーゲン氏はこれまで、ソフトバンク率いる孫正義氏の「宿敵」として知られていた人物だからです。
振り返れば2013年、孫氏がスプリント買収に動いた際、対抗案を出して激しい買収合戦を繰り広げたのがアーゲン氏でした。さらに2018年にスプリントとTモバイルが合併合意に至った際も、「米国の消費者に不利益だ」として反対キャンペーンの先頭に立っていたのです。そんな彼が今、司法省が求める「新たな第4の携帯事業者」を作るための資産の受け皿として、最有力候補に挙がっているのですから、運命の巡り合わせとは恐ろしいものです。
ポーカー・プロが狙う「漁夫の利」と勝算
なぜ、反対派だったディッシュが買収に動くのでしょうか。ここには明確な勝算があります。米国ではネット動画配信の普及により、ディッシュの主力である有料テレビ事業は顧客離れが深刻化しています。アーゲン氏は次なる成長分野として携帯通信事業に目を付け、2015年から通信に必要な「周波数帯」を大量に取得してきました。ここで言う周波数帯とは、いわば携帯電話の電波を通すための「道路」のようなもので、通信事業には欠かせない貴重な公共資源です。
しかし、道路の権利はあっても、実際に通信網(インフラ)を構築するには莫大なコストと時間がかかります。そこで、今回の合併に伴い放出されるプリペイド事業と設備を手に入れれば、一気に参入障壁を下げることができるわけです。アーゲン氏はディッシュ創業前、プロのポーカープレイヤーとして生計を立てていた異色の経歴を持ちます。彼にとって今回の展開は、まさにじっくりと好機を待ち、他社の争いに乗じて利益を得る「漁夫の利」を狙った究極のギャンブルと言えるでしょう。
編集後記:勝負師は勝ち逃げできるか
私自身、この展開には興奮を隠せません。孫正義氏というカリスマに対し、かつてのライバルが、今度は合併成立の「最後のピース」として現れる。まるで映画の脚本のような展開ですが、懸念点もあります。アーゲン氏は交渉においてより良い条件を引き出そうと粘るあまり、過去に勝機を逃したこともあると指摘されているからです。今回の資産売却には、他の有料テレビ企業も関心を示しており、予断を許しません。
2019年、令和最初の年に繰り広げられるこの巨大なM&A(合併・買収)ドラマ。元ポーカープロの勝負師アーゲン氏は、今度こそこのビッグゲームを制し、念願の携帯事業を手中に収めることができるのでしょうか。それとも、策に溺れてしまうのでしょうか。投資家だけでなく、私たちメディアも固唾を飲んで見守る必要があります。
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