2019年6月7日、世界有数の情報機器メーカーであるファーウェイ(華為技術)の本社を訪問した人々が、異例の「ギフト」を受け取っていることが話題になっています。そのギフトとは、スマートフォンなどの主力製品ではなく、フランス人作家フレデリック・ピエルッチ氏が著した**『アメリカン・トラップ(American Trap)』という一冊の書籍です。この本が選ばれた背景には、ファーウェイ創業者の任正非(じんせいひ)氏が本書を愛読しているからだとされており、特にカナダで逮捕された同社幹部、孟晩舟(もうばんしゅう)氏の父親でもある任氏の深い思いが込められていると推察されます。
このピエルッチ氏の著作は、米国がその司法制度を、米国の巨大企業に対抗するライバル企業を弱体化させるための「罠」として利用していると告発する内容です。著者のピエルッチ氏自身、米国の司法の手によって逮捕された過去を持っています。ファーウェイが訪問者にこの本を手渡すという行為は、米国の動きに対する一種の反抗声明であり、同社の強固な決意を示すものと捉えられますが、司法の独立性が欠如しているとしてワシントンを刺激するこの手法が、企業の存続がかかった重大な局面において、本当に賢明な戦略なのかという議論も巻き起こっています。
SNS上では、「この本を配る姿勢は潔いが、米国を刺激しすぎではないか」「中国企業の強気な態度を象徴している」「米国の司法制度への皮肉が効いている」といった様々な反響が寄せられています。特に、米国政府がファーウェイを「エンティティー・リスト(Entity List)」、つまり輸出規制対象リストに追加したことで、同社は米国企業からの部品調達が原則的に禁止されるという極めて厳しい状況に直面しているため、この「本のギフト」は単なる象徴的な行動以上の意味合いを持っているといえるでしょう。
米国の規制がもたらすファーウェイの脆弱性と中国の反撃
ファーウェイ取締役の陳黎芳(ちんれいほう)氏は、この米国の措置について「あらゆる手段を検討しているが、米政府は問題を解決する意図はほとんどなく、ただ我々を倒したいだけのようだ」と強い危機感を表明しています。米国が猶予期間を与えなければ、ファーウェイの事業に甚大な損害が出ることは避けられません。特に、ファーウェイのセキュリティ面において、大きな弱点が露呈しています。同社製品の安全確保に不可欠なソフトウェアの約3分の2が米国製であり、さらに昨年販売されたスマートフォンのおよそ4分の1には、米国のクアルコム(Qualcomm)社の半導体製品が採用されていたためです。
米国が規制を発動するまでには3カ月の猶予期間がありますが、専門家は、これだけの短期間で米製品に代わる十分な代替策を確保するのは極めて困難だと分析しています。このような深刻な問題に直面しているにもかかわらず、ファーウェイがあえてピエルッチ氏の書籍を配ることで米国を挑発しているように見えるのは、一見すると不可解かもしれません。しかし、これはファーウェイや中国政府による、より広範囲な交渉戦略の一部だと見ることができます。
ファーウェイは、自社との取引ができなくなる米国企業もまた損害を被ると主張することで、ワシントンの姿勢を軟化させようと狙っています。これと並行して、中国政府も、米企業による中国への輸出に影響を与える行動に出ると警告を発しており、特に米国の製造業が依存するレアアース製品の供給停止を示唆する動きも見せています。レアアース(Rare Earth)とは、ハイテク製品に欠かせない希少な金属群のことで、中国がその多くを産出・供給しています。この動きは、中国側がファーウェイの件や、孟晩舟氏の動向といった個別問題を、米中間の貿易戦争という大きな枠組みの中で交渉しようと意図していることを示唆していると判断できます。
冷戦の予感? 深まる米中対立の行方
これらの動きは、中国側にとって非常に抜け目のない戦略といえるでしょう。米国が国内の農業部門の支持を取り付けるため、トランプ大統領が大豆などの輸出拡大の見返りに、ファーウェイへの制裁措置を見送る可能性も考えられます。しかし、陳氏の指摘にもあるように、ワシントンはファーウェイを単に市場から排除し、その後に新しい冷戦への土台を築きたいという、より大きな目的を持っているという厳しい見方も存在します。
私見として、私はこの一連の動きが、単なる企業間の競争を超えた、国家間の覇権争いの象徴であると考えています。ファーウェイの技術力は世界トップクラスであり、特に次世代通信規格5G**において優位性を持っているからこそ、米国は安全保障上の懸念を理由に、同社を徹底的に叩こうとしているのでしょう。この「アメリカン・トラップ」を配るという行為は、米国が仕掛ける罠に対する、中国の「静かなる反撃」であり、世界におけるテクノロジーと経済の秩序が大きく揺らぐ時代の始まりを告げていると捉えるべきでしょう。今後の米中両国の動きは、グローバル経済の未来を大きく左右する重要な焦点となるでしょう。
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