「将来は団地に住みたい」という言葉を耳にして、驚きを隠せない方も多いのではないでしょうか。かつての団地といえば、高度経済成長期を象徴する無機質な建物という印象が強かったかもしれません。しかし今、20代から30代のミレニアル世代の間では、そのイメージが劇的に変化しているのです。
彼らのスマートフォンの中には、センス溢れるモダンな空間に生まれ変わった物件が並んでいます。「孤独死」や「老朽化」といったネガティブな言葉をよそに、若者たちは団地を「おしゃれでコストパフォーマンスに優れた最高の素材」と捉えています。偏見を持たない彼らにとって、古い建物は自分らしく彩るためのキャンバスなのです。
特に圧倒的な支持を集めているのが、都市再生機構(UR)と良品計画がタッグを組んだ「MUJI×UR」プロジェクトです。2019年11月15日現在、全国に約50カ所展開されているこれらの物件は、白を基調とした木目の美しい内装が特徴です。「空きが出るのをずっと狙っている」という声が出るほど、熾烈な入居争奪戦が繰り広げられています。
新築信仰の終焉と「自分らしさ」へのこだわり
なぜ、あえて古い団地が選ばれるのでしょうか。2016年に実施された意識調査の結果を紐解くと、世代間での劇的な価値観の変化が見て取れます。かつての親世代にとって家を建てる動機は「新築一戸建てへの憧れ」が主流でした。しかし、現在の20代の未婚男女の間では「自分好みの空間が欲しい」という欲求がそれを上回っています。
この背景には、SNSの普及が深く関わっていると考えられます。料理や日々の暮らしをインスタグラムに投稿する際、背景として映り込む家の中も「映える」状態であることが重要視されています。専門的な言葉で言えば「リノベーション(大規模な改修による機能向上)」によって、既製品にはない独自の世界観を求めているのでしょう。
神奈川県座間市にある「ホシノタニ団地」は、その代表格と言える存在です。築50年を超えた古い社宅を再生させたこの物件は、家賃が40平方メートル弱で月7万円程度と非常にリーズナブル。ネット上では「リノベキラキラ団地」という愛称で親しまれ、おしゃれな若夫婦たちがこぞって生活の様子をアップしています。
また、天井を取り払ってコンクリートの質感をあえて露出させるような、カフェ風のワイルドなデザインもブームを後押ししています。新築のキラキラした高級感よりも、歴史ある建物に新しい息吹を吹き込むプロセスそのものを楽しむのが、今の時代のクールな生き方として定着しているようです。
ゆるやかな繋がりが「孤独」を解消する
ハード面だけでなく、ソフト面での魅力も団地人気の秘訣です。かつての自治会のような堅苦しい組織ではなく、マルシェやフリーマーケットを通じて同世代とゆるやかに繋がれる環境が好まれています。これはSNSの「いいね」で繋がる感覚に近く、都会のマンションでは得られない安心感を若者に与えているのでしょう。
私自身の見解としても、この流れは非常に理にかなった賢い選択だと感じます。高額な住宅ローンを背負ってタワーマンションを購入するよりも、安価な中古物件を自分好みに改造し、浮いたお金で趣味や人間関係を豊かにする。そんな「地に足のついた贅沢」こそが、これからのスタンダードになるはずです。
ミレニアル世代は、画一的な成功モデルを追いかけるのではなく、自分の感性を信じて生活をデザインしています。「タワマンに憧れはない」と断言する彼らの軽やかさは、これからの住宅市場をより自由でクリエイティブなものに変えていくに違いありません。古き良き団地の再生は、まだ始まったばかりなのです。
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