幻の名画「築地明石町」が44年ぶりに公開!ロバート・キャンベル氏が語る、時を超えた着物の美と不思議な縁

秋の気配が深まる2019年11月、日本文学研究者のロバート・キャンベル氏が、東京国立近代美術館で運命的な出会いを果たしました。それは、長らく所在が不明とされ、実に44年ぶりに公開された鏑木清方の傑作「築地明石町」を巡る、驚きの物語です。

キャンベル氏は、かつて京都の聚光院で、俳優の松坂慶子さんと共に伝統的な茶室でお茶を嗜むテレビ番組の撮影に臨みました。その際、着物スタイリストの第一人者である江木良彦氏が、脱ぎ捨てられた袷を魔法のように鮮やかに畳む姿に心を奪われたといいます。

「袷(あわせ)」とは、裏地の付いた着物のことで、季節の変わり目に重宝される衣類です。江木氏の職人技は、まるでカワセミが水面から飛び立つ瞬間を切り取ったかのように美しく、キャンベル氏の記憶に深く刻まれていました。

スポンサーリンク

近代日本の美を体現する、清方の最高傑作「築地明石町」

1927年に発表された「築地明石町」は、現在の東京都中央区に位置するかつての外国人居留地を舞台にしています。かつては低湿地だったこの地は、明治維新を経て、教育や医療といった「近代知」が集まる洗練された文教地区へと変貌を遂げました。

絵画の中には、朝霧が立ち込める中で振り返る、一人の凛とした女性が描かれています。夜会巻に結われた髪や、左手の薬指に輝く金泥の指輪からは、理知的な気品が漂います。淡い青色の小紋に黒い羽織を重ねた姿は、晩夏の涼やかな風を感じさせます。

SNS上でも「この絵の前に立つと、当時の築地の空気が伝わってくる」「失われた明治の美しさがそこにある」といった感動の声が相次いでいます。まさに日本画の極致とも言えるこの作品が、なぜ今、再び脚光を浴びているのでしょうか。

驚くべき事実は、展示室の冒頭にありました。キャンベル氏は、展示ケースの中に「江木」という名前を見つけたのです。なんと、この絵のモデルとなった実在の女性「江木ませ子(万世)」さんは、あの着物スタイリスト・江木良彦氏の祖母だったのです。

血脈を超えて受け継がれる、美意識という名のタスキ

キャンベル氏がすぐさま江木氏に連絡を取ると、驚きの真実が次々と明らかになりました。江木氏の父であり著名な記者だった武彦氏は、亡き母・万世さんを深く慕い、その美しさを息子に語り継いでいたというのです。

私自身の見解を述べさせていただくなら、このエピソードは単なる偶然の一致ではありません。芸術家が捉えた一瞬の美が、数十年を経てその血族や、それを見つめる研究者の手によって再び命を吹き込まれるという、文化の継承における幸福な連鎖を感じずにはいられません。

美を解する心は、言葉や写真、そして卓越した職人技を通じて時代を跨いでいくのでしょう。2019年11月現在、キャンベル氏は江木氏と共に、谷中に眠る万世さんのお墓参りを計画しています。寒さが本格的になる前に、時を超えた再会が果たされることでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました