ラグビーワールドカップ日本大会が列島を熱狂の渦に巻き込んでいた2019年10月中旬、東京体育館ではもう一つの激しいラグビーが幕を開けました。それは、パラリンピック競技の中でも唯一車いす同士の激しいコンタクトが許されている「車いすラグビー」の国際大会、ワールドチャレンジです。世界中から集結した強豪8カ国が5日間にわたって火花を散らす熱戦を繰り広げました。
今大会の総来場者数は、国内のパラスポーツ大会史上最高となる3万5700人を記録したそうです。特に平日の会場内は、東京都の招待によって足を運んだ小中高生たちの明るい声で満たされていました。SNS上でも「初めて生で観たけれど、衝撃音がすごくて鳥肌が立った」「激しいタックルに圧倒された」といった驚きと興奮の投稿が相次ぎ、その迫力が多くの人の心に届いたことが伺えます。
葛飾区からバスで1時間をかけて訪れた小学校の副校長先生は、この大会を「サポート」を学ぶ貴重な学習機会と捉えていました。選手同士の助け合いはもちろん、車いすをメンテナンスする「メカニック」と呼ばれる技術者、円滑な運営を支えるスタッフ、そして熱い声援を送る観客が、それぞれどのような役割を果たしているのかを生徒たちと考えるためです。
驚くべきことに、その副校長先生とは決勝の日にも再会しました。今度は公務ではなく、ご家族と一緒に純粋なファンとして応援に来られていたのです。さらに、同じ学校の児童4人も家族連れで会場を訪れていました。学校をきっかけに芽生えた興味が、家庭をも巻き込む大きな応援の輪へと広がっていく様子を目の当たりにし、私は胸が熱くなる思いがしました。
高知県においても、車いすラグビーへの関心は非常に高く、地域一体となった盛り上がりを見せています。その原動力となっているのが、地元出身で日本代表のキャプテンを務める池透暢選手です。池選手は仲間と共に積極的に学校を訪問しており、その真摯な活動が幅広い層のファンを獲得しています。トップアスリートの存在は、地域に希望を与える大きな光と言えるでしょう。
次世代を育むための大きな壁と道具支援への期待
池選手のようなスターに憧れ、競技を始めたいと願う子どもたちが増えることは素晴らしいことですが、現実は甘くありません。パラスポーツの普及を阻む大きな壁の一つに、競技用具の入手困難さが挙げられます。例えば、車いすラグビーで使用する専用の車いすは、激しい衝撃に耐えうる特殊な構造をしており、その価格は1台で100万円を超えることも珍しくありません。
個人が趣味や習い事の延長として購入するには、あまりに高額なハードルです。実は、池選手自身も最初は高知県立障害者スポーツセンターが備品として所有していた車いすがあったからこそ、競技の世界に踏み出すことができたといいます。もしその一台がなければ、現在の日本代表キャプテンは誕生していなかったかもしれません。道具との出会いが人生を変えるのです。
東京2020パラリンピックをきっかけにスポーツを志す障害のある子どもたちが、経済的な理由で夢を諦めることがあってはなりません。自治体や企業には、単なるイベントの支援に留まらず、こうした競技用具の整備や貸出制度の充実といった「足元を支える支援」にも目を向けていただきたいと切に願います。環境さえ整えば、未来のメダリストはもっと増えるはずです。
車いすラグビーが示した熱狂は、パラスポーツが持つエンターテインメントとしての高い価値を証明しました。この盛り上がりを一過性のブームに終わらせるのではなく、次世代の選手たちが当たり前に競技を楽しめる文化として根付かせていくことが、私たちに課せられた次のステップではないでしょうか。2019年11月14日という今、新たなスポーツの歴史が動き出しています。
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