2020年の東京パラリンピックを目前に控え、障害の有無を超えて認め合う「共生社会」という言葉が、あちこちで聞かれるようになりました。しかし、重度の知的障害を持つ方々への偏見は、今なお社会の深層に根強く残っているのが現実です。そんな中、静岡県浜松市で「ありのまま」を肯定する革命的な試みに挑む女性がいます。
NPO法人「クリエイティブサポートレッツ」の理事長を務める久保田翠さんは、2018年10月1日、浜松市の中心街に「たけし文化センター」を設立しました。ここは、一般的な福祉施設のイメージを根底から覆す場所です。SNSでは「福祉の概念が変わった」「型破りだけど本質的」といった驚きの声が、じわじわと広がりを見せています。
このセンターでは、約30名の知的障害を持つ方々が思い思いの時間を過ごしています。延々と階段を上り下りする人、粘着テープを貼っては剥がす動作を繰り返す人、あるいは地面を叩いて独特の声を上げる人もいます。これらは通常、社会生活を営む上での「問題行動」として、矯正の対象にされてしまう振る舞いばかりでしょう。
しかし、久保田さんはこれらをすべて大切な個人の「表現」として受け入れています。スタッフたちは、彼らの予測不能な動きを面白がり、新鮮な発見として見守っているのです。この自由な空気感に惹きつけられ、最近では研究者やアーティストまでもが、新たな刺激を求めてこの地を訪れるようになっています。
「お母さんがみるのが当たり前」という壁を壊して
久保田さんがこの活動を志したのは、1996年10月、重度の知的障害を持つ長男・壮(たけし)さんを出産したことが原点でした。当時、デザイナーとしてキャリアを築いていた彼女は、仕事との両立を願って行政に相談へ向かいます。そこで突きつけられたのは「障害児の面倒は母親がみるのが当然」という、冷酷な一言でした。
当時の福祉の選択肢は、家庭にこもるか、さもなければ人里離れた施設へ「隔離」するかの二択に近い状態だったと言えるでしょう。多くの施設では、社会に貢献できる人間を作るための「訓練」が行われます。ですが、意思疎通すら困難な子どもたちに、画一的なルールを強いることに、久保田さんは強い違和感を抱きました。
彼女は、世間の枠に当てはめるのではなく、彼らの中にある「こだわり」や「熱意」こそが、人間としての輝きであると確信したのです。そして2000年に、同じ悩みを持つ母親たちと手を取り合い、自分たちの居場所を作るために立ち上がりました。それは、既存の福祉に対する静かな、しかし力強い抵抗でもありました。
現在の「たけし文化センター」は、福祉施設でありながら、一般客が泊まれるゲストハウスやシェアハウスも併設されています。障害者が隔離されるのではなく、街の真ん中で多様な人々と混ざり合って生きる。これこそが、私が考える「真のバリアフリー」の姿です。効率や生産性だけで人間を測らない社会を、私たちは選ぶべきではないでしょうか。
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