格安航空会社(LCC)界に、大きな衝撃が走りました。2019年11月1日に、ピーチ・アビエーションとバニラ・エアが正式に経営統合を果たし、新生ピーチとして新たな空の旅をスタートさせたのです。国内最大の規模を誇るLCCとして、日本のみならずアジア全域へのネットワーク拡充を急ピッチで進めています。
「統合は計画通りです」と力強く語るのは、ピーチを率いる井上慎一CEOです。今回の統合において彼が最も心を砕いたのは、異なる企業文化の融合でした。2018年11月から、井上氏は自らバニラ・エアの現場へ飛び込み、社員一人ひとりと対話を重ねてきたといいます。トップが自ら動くことで、組織の壁を壊そうとしたのです。
井上氏はバニラの社員たちに対し、「東アジアのライアンエアーやサウスウエスト航空になろう」という夢を掲げました。これらは欧米で圧倒的なシェアを誇るLCCの先駆者たちです。首都圏に強みを持つバニラと、関西を拠点とするピーチが手を組めば、まさに鬼に金棒。SNSでも「この2社が合わされば最強」「機体の色がどうなるか楽しみ」と期待の声が溢れています。
「おもろい」が世界を変える!ユニークな組織づくり
ピーチといえば、関西弁の機内アナウンスや「大喜利」でアイデアを採用する独特な社風で知られています。井上氏は「サービス業なんだから、楽しく仕事をしなければお客様には伝わらない」と断言します。ふざけているのではなく、社員が自分らしく輝ける環境こそが、逆境に負けない強い組織を作ると信じているのでしょう。
特筆すべきは、業務時間の1割を「イノベーション」のために使うというルールです。日々のルーティン作業に流されるのではなく、あえて考える時間を作ることで、無駄な業務を削減し、生産性を高める狙いがあります。航空会社でありながら、ITベンチャーのような柔軟な発想を重視する姿勢は、既存の航空業界にはない革新性を感じさせます。
また、同社は安全への意識も非常にストイックです。2019年度からは、全社員が御巣鷹山などの事故現場を訪れる研修を義務化しました。言葉で伝えるよりも、現場の空気を肌で感じることが、命を預かる仕事の重みを理解する近道だと考えているからです。自由奔放に見える裏側には、徹底した安全への誓いが刻まれています。
2020年を見据えた「ファーストムーバー」の戦略
2020年の東京五輪を目前に控え、アジア各国のLCCが日本市場を虎視眈々と狙っています。井上氏が掲げる戦略は、他社に先駆けて行動する「ファーストムーバー(先行者)」であることです。「富士山の次に高い山を誰も知らないように、一番でなければ意味がない」という言葉に、彼の並々ならぬ決意が滲みます。
新生ピーチは、成長著しい東南アジアへの中距離路線への就航も計画しています。中間層が拡大するアジア圏において、安価で手軽な空の旅への需要は爆発的に高まっていくでしょう。世界的な経営者から学んだ「他社に負けない顧客体験」を武器に、ピーチは既存の「安かろう悪かろう」というLCCのイメージを塗り替えようとしています。
親会社であるANAホールディングスの傘下に入っても、「青く染まるな」という激励を受けている通り、ピーチの独自性は失われません。効率化だけでなく、顧客にワクワクを届ける姿勢を貫けるか。巨大化した「桃」が、アジアの空でどこまで高く舞い上がるのか、これからの展開から目が離せません。
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