インド洋に浮かぶ「真珠」とも称されるスリランカで、国の行方を占う重要な転換点が訪れました。2019年11月17日、選挙管理委員会は前日の16日に実施された大統領選挙において、野党候補のゴタバヤ・ラジャパクサ氏が勝利したと発表したのです。対立候補だった与党側のサジット・プレマダサ氏が敗北を認めたことで、同国には再び強力な指導力を誇るラジャパクサ一族による統治が戻ってくることになります。
今回の選挙において、70歳のゴタバヤ氏が最も強調したのは「国家の安全保障」でした。スリランカでは、かつて多数派のシンハラ人と少数派タミル人による泥沼の内戦が26年もの間続いていましたが、2009年にこれに終止符を打ったのが、当時の大統領である兄マヒンダ氏と、国防次官を務めていたゴタバヤ氏の兄弟です。この歴史的な実績が、治安維持への強い期待として今回の得票につながったのでしょう。
SNS上では、このニュースに対して「スリランカが再び中国の影響下に置かれるのではないか」という懸念の声が多く上がっています。一方で、国内の支持層からは「強力なリーダーシップで経済を立て直してほしい」といった切実な願いも目立ちます。2019年4月に発生した悲劇的な大規模テロ事件以降、同国の主要産業である観光業は大きな打撃を受けており、国民は安定した社会と経済の再生を渇望しているのです。
中国の「一帯一路」とインドの警戒感が交錯する地政学の最前線
国際社会が最も注視しているのは、ラジャパクサ政権による「親中路線」への回帰です。スリランカは人口約2100万人の島国ですが、海上交通の要衝に位置するため、安全保障上の価値が極めて高いとされています。中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」において、スリランカは不可欠な拠点です。ここでいう一帯一路とは、中国から欧州へ続く陸路と海路を整備し、物流と経済の影響力を拡大しようとする壮大な戦略を指します。
かつてのマヒンダ政権下では、中国からの多額の投融資によって港湾整備が進められました。しかしこれが「債務の罠」とも呼ばれる過度な依存を招いた経緯があります。これに対し、隣国インドや「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日米は強い警戒を隠せません。インドのモディ首相は、2019年11月17日にいち早くツイッターで祝意を示しましたが、これは南アジアでの中国の台頭を牽制し、良好な関係を維持したいという思惑の表れでしょう。
私自身の見解としては、ラジャパクサ氏は単なる「親中」一点張りではなく、極めて現実的なバランス外交を模索せざるを得ないと考えています。公約でも「アジア諸国との関係強化」を謳い、インドとの連携を重視する姿勢を見せているからです。かつての教訓を活かし、大国間のパワーゲームの中で自国の利益を最大化する「綱渡り」の外交手腕が、これからの新政権には厳しく問われることになるはずです。
経済面に目を向けると、2019年の実質GDP成長率は2.7%にまで減速する見通しで、観光客数も前年比で20%以上落ち込んでいます。新大統領には、中国からの投資を呼び込みつつも、国家の主権を守り抜くという極めて難しい舵取りが求められます。インド洋の安定は、日本を含む世界のエネルギー輸送路の安全に直結します。一国のリーダー交代が、世界の勢力図をどう塗り替えるのか、私たちは今まさにその目撃者となっているのです。
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