2019年11月12日の午後、上海市郊外のホテルでは、若き起業家たちの熱意と厳しい現実が交錯していました。28歳の宗文豪氏が率いる「上海舵敏智能科技」は、自動運転技術の中でも特にニーズの高い自動駐車システムに特化した注目のスタートアップです。彼は投資ファンドや政府幹部を前に、競合他社よりも低コストで高精度なセンサー技術をアピールし、自社の優位性を力説しました。
この日開催された事業計画を競い合う「ピッチコンテスト」には20社近くが参戦し、宗氏は見事に3位という好成績を収めています。しかし、かつての熱狂はそこにはありませんでした。彼のプレゼンに興味を示す個人投資家、いわゆる「エンジェル投資家」は一人も現れなかったのです。起業初期の企業に資金と助言を差し伸べる彼らの不在は、市場の冷え込みを象徴しているかのようでした。
かつては広東省の電気自動車(EV)メーカーが投資に意向を示していましたが、政府による補助金削減の影響でその話も立ち消えとなりました。「1000万元(約1億5000万円)の壁がこれほど遠いとは」と漏らす宗氏の姿からは、資金繰りの厳しさが痛いほど伝わります。SNS上でも「かつてのバブルが嘘のようだ」「技術があっても資金が続かなければ終わる」といった、悲観的な声が目立ち始めています。
急減速する投資マネーと出口戦略の迷走
中国のスタートアップ投資は、2019年に入り明確な変調をきたしています。調査データによれば、2019年11月末までの投資額は約5兆円強にとどまり、9兆円規模を誇った2018年と比較すると約4割も減少するペースで推移しているのです。有力メディアの経営者も、以前なら上位5社が受けられた投資が、今や1、2社に厳選される「超狭き門」になっていると現状を危惧しています。
投資家が慎重になる背景には、期待の星だった「ユニコーン企業」たちの苦戦があります。ユニコーンとは、企業価値が10億ドルを超える未上場の新興企業を指しますが、2018年に華々しく上場したシャオミや共同購入サイトのピンドゥオドゥオ、EVの蔚来汽車(NIO)などの業績は芳しくありません。巨額の赤字計上や幹部の離脱が相次ぎ、上場さえすれば勝てるという神話は崩壊しつつあります。
さらに、資金の出し手である富裕層の懐事情も変化しています。上海株式市場の低迷や不動産バブルの沈静化に加え、習近平指導部による金融規制の強化が追い打ちをかけました。野放図な投資を抑制する政府の動きにより、ファンド自体が資金を集められなくなる「ドライパウダー(投資余力)の枯渇」が起きています。もはや、どんなアイデアにも金が出る時代は過去のものとなったのでしょう。
それでも、中国が世界第2位のスタートアップ大国である事実に変わりはありません。2019年にも新たに16社のユニコーンが誕生しており、層の厚さは健在です。激しい嵐の中でこそ、本当に強い草が判明するという意味の「疾風に勁草を知る」という言葉通り、現在の逆風は本物の企業を選別する淘汰のプロセスと言えます。この苦境を乗り越えた企業こそが、次世代の覇権を握るに違いありません。
コメント