2019年12月05日、読書界を牽引する評論家の野崎六助氏が、今まさに手に取るべき「魂を揺さぶる3冊」を選び抜きました。その筆頭として挙げられたのが、ジェイムズ・A・マクラフリン氏による衝撃作『熊の皮』です。SNS上でも「自然描写の美しさとバイオレンスの対比が凄まじい」「一気読み必至」と大きな話題を呼んでいる本作は、単なるネイチャー・ミステリーの枠に収まらない重層的な魅力に満ち溢れています。
物語の舞台は、過酷ながらも美しい山岳地帯の自然保護区。主人公はそこを守る管理人ですが、彼には人には言えない秘密があります。実はかつて麻薬カルテルと命がけのトラブルを起こし、身を隠すためにこの僻地へと逃げ延びてきたのです。自然への深い愛と密猟者との死闘という「表の物語」に、逃亡者としての「裏の物語」が複雑に絡み合う構成は、読者の目を片時も離させないでしょう。
作中には「熊の胆(たんのう)」を巡る犯罪組織の暗躍や、正体不明の潜入捜査官、さらにはカルテルが放つ冷酷な暗殺者「シカリオ」まで登場します。誰が味方で誰が敵か分からない混沌とした状況の中で、主人公の過去が少しずつ剥き出しにされていく仕掛けは見事というほかありません。自然の静寂と、裏社会の乾いた銃声が重なり合う瞬間は、まさに極上のエンターテインメントと言えます。
不朽のシリーズ最新作と戦後史を刻む重厚な人間ドラマ
続いて紹介されたのは、大沢在昌氏の伝説的シリーズ最新作『暗約領域 新宿鮫11』です。2019年もその勢いは衰えず、ヤミ民泊の監視という日常的な警察業務から、国家間の諜報戦へとスケールが拡大していく展開には脱帽するばかりです。孤独な刑事・鮫島が新宿という巨大な海溝を突き進む姿は、シリーズを追い続けてきたファンはもちろん、初めて読む方の心も強く射抜くに違いありません。
さらに、堂場瞬一氏の『沃野の刑事』も見逃せない一冊となっています。物語の舞台は1970年。刑事、公安、そして記者という、異なる立場に身を置く戦争世代の男3人が主軸となります。彼らが人生の黄昏を迎えながらも、己の意地と理想を懸けて戦う姿は、現代を生きる私たちにも「正義とは何か」を厳しく問いかけてきます。戦後最大の疑獄事件を予感させる重厚な時代描写は、圧倒的なリアリティを放っています。
今回、野崎六助氏が選んだ作品群に共通しているのは、いずれも「個人の矜持」が描かれている点ではないでしょうか。逃亡者、孤独な刑事、そして老いゆく表現者たち。彼らが置かれた境遇は過酷ですが、その中で煌めく一瞬の意志こそが物語を輝かせています。SNSでの熱狂的な反応が示す通り、これらの作品は今この時代に読まれるべき強度を持っています。読書の冬、深い物語の森へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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