かつて民主化の旗手として世界中から喝采を浴びたアウン・サン・スー・チー国家顧問が、異例の事態に直面しています。2019年12月11日、彼女はオランダ・ハーグにある国際司法裁判所(ICJ)の法廷に立ちました。国家の指導者が自らこの場に臨むのは極めて珍しく、世界中のメディアがその一挙手一投足に注目しています。
今回の裁判は、西アフリカのガンビアがミャンマーを相手取って訴えを起こしたものです。争点は、イスラム系少数民族「ロヒンギャ」に対する軍の掃討作戦が、集団殺害を意味する「ジェノサイド」に該当するかどうかという点にあります。これに対しスー・チー氏は、ガンビア側の主張について「事実を正確に反映しておらず、誤解を招く内容だ」と強い口調で否定しました。
ジェノサイドと国際人道法の壁
ここで耳にする「ジェノサイド」とは、特定の民族や宗教グループを計画的に破壊しようとする行為を指し、国際法上でも最も重い罪の一つとされています。スー・チー氏は法廷で、2017年8月に発生した武装集団による襲撃事件が発端であり、あくまで治安維持のための作戦であったと説明しました。安易な国際社会の介入は、かえって事態を悪化させると警鐘を鳴らしています。
しかし、彼女はすべての責任を否定したわけではありません。作戦の過程で、軍による過剰な武力行使や略奪といった「国際人道法」に触れる事態があった可能性については認める発言をしました。国際人道法とは、戦争や紛争時であっても、一般市民を守るために守らなければならない最低限のルールのことです。彼女は「人権侵害は決して許さない」と断言し、国内で厳正に処罰する姿勢を示しました。
SNS上では、この毅然とした態度に「国を守ろうとする愛国者の姿だ」とミャンマー国内から支持の声が上がる一方、欧米諸国からは「かつての平和賞受賞者が軍の暴走を追認するのか」という失望の声が入り混じっています。民主化の象徴だった彼女の変貌に、世界中のユーザーが複雑な思いを抱いているようです。
国際社会の厳しい視線と今後の焦点
今回の審理は、まずは虐殺を止めるための「仮保全措置」について2019年12月12日まで行われます。その結論は数週間以内に出る見通しですが、本裁判では「組織的に集団を絶滅させる意図があったか」という立証が最大の壁となるでしょう。専門家からは、今回の提訴がミャンマー政府に対する国際的な政治圧力を高める強力な手段になるとの見方も出ています。
実際にミャンマーを取り巻く環境は厳しさを増しています。2019年12月10日にはアメリカが軍幹部への資産凍結を発表し、カナダやオランダも提訴を支持する意向を表明しました。国内の安定のために国軍との連携を重視せざるを得ないスー・チー氏にとって、国際的な信用と国内統治のバランスをどう取るか、まさに正念場を迎えていると言えるでしょう。
編集者の視点から言えば、正義の形は立場によってこれほどまでに変わるのかと痛感させられます。人権擁護を求める国際社会と、複雑な民族問題を抱える国家の論理。どちらか一方が正しいと切り捨てられない危うさがここにはあります。スー・チー氏が選んだ「法廷での反論」という道が、ミャンマーの未来にどのような光と影を落とすのか、私たちは注視し続ける必要があります。
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