2019年10月に東日本を襲った台風19号の猛威から、早いもので2カ月が経過しようとしています。被災地では着々と復興への歩みが進められていますが、農業の現場では今なお深刻な課題が山積みです。特に長野県佐久市では、農業に欠かせない河川からの取水施設である「頭首工(とうしゅこう)」が甚大な被害を受け、来春の作付けを危ぶむ声が広がっています。
「頭首工」とは、川から農業用水を引き入れるために設けられた堰(せき)や水門などの施設の総称です。いわば、田んぼに水を送り込むための「心臓部」といえるでしょう。佐久市内には370カ所以上の頭首工が存在しますが、今回の災害でその約7割にあたる250カ所以上が被災しました。SNS上では「来年のお米は大丈夫なのか」「水が来なければ農家を続けられない」といった、切実な不安の声が次々と投稿されています。
巨大なライフラインを襲った異変と懸命の復旧作業
2019年11月25日、佐久平土地改良区が管理する「佐久平頭首工」で待望の復旧工事が産声を上げました。この施設は、東京ドーム約200個分という広大な面積を潤す、地域農業の要です。幸いにも水門自体は無事でしたが、川底を通る直径1.35メートルの巨大な送水パイプが濁流にさらされ、一部が露出・破損するという異常事態に陥っています。
現場では、パイプが自重でたわんでしまうほど深刻な状況が確認されました。代かきの時期には毎秒8トンという膨大な水量が必要となるため、簡易的なポンプで代用することは不可能です。そのため、壊れたパイプを直接交換する抜本的な修理が急ピッチで進められています。関係者は「何としても2020年の田植えまでに間に合わせる」という強い決意を胸に、冷たい水の中での作業を続けています。
長野県全体の農業被害額は、2019年11月21日時点で587億円に上り、その2割を頭首工の被害が占めています。特に東信地区は県内有数の米どころであり、一年の休止は農家の営農意欲を根底から削いでしまいかねません。一度耕作を諦めてしまえば、再び立ち上がるのは至難の業です。編集部としても、地域の伝統と景観を守るこの戦いを全力で応援したいと考えます。
地域ごとに異なる被害の形と、未来へ繋ぐ仮設の絆
今回の災害は、地域によって被害の様相が大きく異なるのも特徴です。佐久地域が頭首工などの「施設」に大きなダメージを受けた一方、長野地域では堤防決壊による「農地」そのものの冠水被害が目立ちます。2019年11月21日現在の調査では、長野市穂保地区のリンゴ園や松代地区の長芋畑など、特産品への影響も深刻であることが浮き彫りになりました。
本格的な復旧には長い年月を要するケースも想定されます。しかし、農家の方々が来シーズンの準備を始める今、県や市は「仮設水路」を設置してでも、まずは一年の作付けを維持させる方針を打ち出しました。現場の担当者が「農業は一度休むと戻れない」と語る通り、今はスピード感が何よりも求められています。泥に埋まった水路を一つひとつ掘り起こす、地道な努力が今日も続いています。
コメント