2019年11月19日現在、アジアのハブ港湾という栄冠を勝ち取るべく、横浜港は韓国の釜山や中国の上海、そしてシンガポールといった強豪の後を猛追しています。カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致や、AIを駆使した最新鋭ターミナルの建設計画など、国と横浜市が知恵と資金を出し合い、港の競争力を高めるための模索が続いています。
そんな中、本牧エリアで始まった巨大な戦略ターミナル整備事業が、意外な形で注目を集めています。驚くべきは、その資金の出し手です。なんと港の運営とは直接的な関わりの薄い民間企業、JR東海が事業費の3分の2に相当する約600億円を負担することになりました。なぜ鉄道会社が、海に眠る巨額の投資を引き受けたのでしょうか。
リニア新幹線と横浜港を結ぶ「財政投融資」のマジック
この異例の連携を支えたのが、「財政投融資(財投)」という仕組みです。これは、国が「財投債」という国債を発行して調達した資金を、民間の銀行では不可能なほどの超低金利かつ長期固定という破格の条件で貸し付ける制度を指します。いわば、国の信用力を背景にした、公共性の高いプロジェクト向けの「超特別ローン」といえるでしょう。
2016年に政府がリニア中央新幹線の工事に対し、1.5兆円もの財投を投入したことが転機となりました。これにより全線開業が8年も前倒しされることになり、工事で発生する膨大な残土を横浜港が受け入れ、その見返りにJR東海が資金を出すという「相乗効果」が生まれたのです。横浜市の担当者が「財投のおかげ」と胸をなでおろすのも無理はありません。
SNS上では「税金を使わずにインフラが整うのは素晴らしい」といった歓迎の声がある一方で、「リニアの残土処理を港の埋め立てに利用するのは、究極のリサイクルだ」という合理性を評価する意見も目立ちます。しかし、この記事の本質的な問いは、こうした「官」主導の資金供給が、どこまで膨らみ続けるのかという点にあります。
日銀のゼロ金利が生んだ「机上の錬金術」
財投の威力は港湾整備に留まりません。2018年秋に台風で甚大な被害を受けた関西国際空港の防災対策にも、この魔法のような仕組みが活用されています。将来の金利上昇リスクを、国が40年間の超低金利融資で肩代わりすることで、利払い費として消えるはずだった270億円を捻出し、防潮壁のかさ上げ費用に充てたのです。
これはまさに、日銀が作り出した「長期金利ゼロ」という特殊な環境下でのみ成立する、机上の錬金術とも呼べるスキームです。安倍晋三首相が打ち出した経済対策でも、財投が大きな柱として据えられています。かつて2001年の改革で縮小傾向にあった財投が、低迷する日本経済を支えるために、再び主役の座に返り咲こうとしているのです。
私個人の見解としては、こうした「官のリスクマネー」に頼りすぎる現状に強い危惧を抱いています。欧米諸国に比べて、日本は民間がリスクを取って投資を行う「プライベート・エクイティ」の市場規模が圧倒的に小さく、GDP比では米英の5分の1以下です。官が手を差し伸べれば差し伸べるほど、民間の「目利き力」や「野心」が失われてしまうのではないでしょうか。
かつての金融ビッグバンが目指した、民間の自由な競争はどこへ行ったのでしょう。今や銀行までもが、国が保証する安全なプロジェクトに乗っかって稼ぐ姿ばかりが目立ちます。財投という強力な武器を、単なる「延命措置」にするのではなく、企業が自らの足で立つための「踏み台」として使いこなす強かさが、今の日本には求められています。
コメント