令和の新春を彩る日本画家・蒼野甘夏が描く「一歩踏み出す勇気」とアイヌの神話

2020年01月01日、令和となって初めて迎える輝かしい元旦に、北海道が生んだ注目の日本画家・蒼野甘夏さんが、新たな時代への決意を込めた作品を発表しました。札幌から車で1時間ほどの場所に位置する豪雪地帯、新篠津村で育った彼女は、豊かな自然と畑仕事に明け暮れる幼少期を過ごしたといいます。何もないからこそ無限に広がった想像力が、神話や伝説を現代に蘇らせる彼女の作風の源泉となっているのでしょう。

今回の作品のモチーフとなったのは、アイヌ民族に伝わる「ウエペケレ」という口承文芸の一つ、「家出した犬」という物語です。ウエペケレとは、話し手が交代しながら「自分の体験談」として語り継ぐスタイルの昔話で、アイヌの人々はこれを通じて、人間としての正しい道徳や生き方を後世に伝えてきました。今回の物語も、犬や女性、若者といった登場人物たちがリレー形式でバトンを繋ぎながら、ドラマチックに展開していきます。

物語の主人公は、子供のいない夫婦に深い愛情を注がれて育った一匹の犬でした。しかし、卑怯な手段で獲物を横取りする他の犬たちの出現により、主人の信頼を失ったと誤解した犬は、慣れ親しんだ家を出ることを決意します。SNS上でも「今の社会に通じる理不尽さがある」「犬の気持ちに感情移入してしまう」といった声が上がっており、理不尽な評価に晒されながらも尊厳を守ろうとする姿が、現代を生きる人々の共感を呼んでいるようです。

安住の地である「コンフォート・ゾーン」を捨てることは、決して容易ではありません。コンフォート・ゾーンとは、心理学的にストレスや不安を感じずに過ごせる「ぬるま湯」のような状態を指しますが、この犬はあえて未知の世界へ飛び込みました。命がけで崖を飛び越えた先で、彼女は自分が「熊神の娘」であることを知り、人間の女性へと姿を変えて新しい人生を歩み始めます。この劇的な変化は、勇気ある行動が奇跡を呼ぶことを教えてくれます。

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自立する意志を込めた「はだしの女性」と伝統の美

蒼野さんは、崖に着地した瞬間の犬を、力強く立つ「はだしの女性」として描き出しました。2019年に制作されたこの「紙本彩色」の作品には、他者に依存せず、自分の足で人生を切り拓こうとする凛とした意志が宿っています。彼女の手に握られているのは、アイヌの女性が丹精込めて編み上げる「チタラペ」と呼ばれる美しい紋様のゴザです。細部までこだわり抜かれた描写からは、北の大地に根ざした伝統への深い敬意が伝わってきます。

背景を美しく飾るのは、北海道の長い冬が終わりを告げる象徴である「ユキヤナギ」の花です。可憐ながらも生命力に溢れた白い花々が、新しい門出を祝福しているかのようですね。蒼野さんは、あえて「想定内の小さな世界」に留まらず、一歩外へ踏み出すことの大切さを訴えています。このメッセージは、変化の激しい令和の時代を生き抜く私たちにとって、暗闇を照らす一筋の光のように感じられるのではないでしょうか。

東山魁夷記念日経日本画大賞に入選を重ねるなど、現代的な美人画で高い評価を得ている蒼野さんの視点は、常に「今」を見つめています。現状に甘んじることなく、困難を飛び越えた先にある新しい自分に出会うこと。そんな力強い願いが込められたこの作品は、2020年という節目の年をスタートさせるのに相応しい、気高き美しさに満ちています。私たちも彼女の描く女性のように、前を向いて歩き出したいものですね。

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