世界的な鋼材需要の減速により、鉄鋼専門商社を取り巻く環境は厳しさを増しています。伊藤忠丸紅鉄鋼の兼田智仁社長は、2019年以降の市場の失速を指摘しており、2019年4月から2019年9月期の連結純利益は前年同期比9%減の120億円にとどまりました。特に米中貿易摩擦の影響が色濃いタイでは新車販売が落ち込んでおり、日本の鉄鋼メーカーと連携する現地加工拠点(コイルセンター)の業績に直結しています。同社はここ数年で構造改革を進めてきましたが、今後は不採算な海外事業の集約をさらに加速させる方針です。
SNS上では、米中貿易摩擦の実体経済への影響がこれほど鮮明に出ていることに驚く声が上がっています。また、自動車産業の冷え込みが鉄鋼商社に直撃する構造に対し、サプライチェーンの再構築を期待する意見も少なくありません。世界経済の動向が、私たちの身近な産業に直結していることが改めて浮き彫りになりました。
業界再編の鍵を握る「IT活用」と生き残りへの決断
鉄鋼メーカーが生産や営業の合理化を推進する中、専門商社もまた大きな変革期を迎えています。兼田社長はここ2から3年が勝負の時期になると見据えており、メーカーの組織再編に伴って商社間の事業統合が進むと予想しているのです。ここで注目されるのがIT(情報技術)の導入であり、深刻な人手不足が続く鉄鋼流通において、業務の効率化はもはや避けて通れない課題となっています。
顧客が求める「速さ」「正確さ」、そして「コスト競争力」を満たすため、各商社が分散して保有していたITなどの経営資源を共通化することも有力な解決策として浮上しています。これまで競合関係にあった商社同士が手を組み、システムを共有するという柔軟な発想は、これからの時代を生き抜くために極めて合理的であり、業界のデジタルシフトを加速させる素晴らしい試みだと感じます。
2020年の国内外市場の見通しと警戒される中国の動向
2020年は東京五輪の開催を控えているものの、国内の鋼材内需は横ばいで大きな伸びは見込めない見通しです。土木向けは堅調ですが、建築用は需要の端境期(はざかいき:物事の移り変わりの時期)に当たり、五輪期間中の物流停滞への懸念もあります。さらに自動車向け需要も引き続き減速する可能性が高く、国内市場は予断を許さない状況が続くでしょう。
一方の外需に関しては、中国の動向が最大の焦点となります。2020年1月下旬からの春節(旧正月)明けの市場が最初の転換点になる模様です。中国国内で鋼材在庫の削減が進み、高止まりしていた鉄鉱石価格も下落に転じる中、需給の落ち着きに伴って中国勢が増産に踏み切る可能性も指摘されています。これがアジア全域への安値輸出につながれば、ようやく底打ちの兆しが見えてきたアジアの鋼材市況が再び下落するリスクもあり、警戒が必要です。
次の20年を見据えた地場連携と攻めの戦略
伊藤忠商事と丸紅の鉄鋼部門が統合して約20年が経過し、2020年は次の未来を占う大きな節目となります。保護主義の台頭や国内からの輸出減少という逆風に対し、商社側も日鉄物産や住友商事との間でコイルセンター事業の相互出資を決めるなど、従来の枠組みを超えた再編に動いています。今後は中国やインドなど、海外生産を拡大するメーカーに寄り添い、現地の販路開拓に強い地場企業との積極的な提携が急務となるでしょう。
これからの鉄鋼商社には、守りだけでなく攻めの姿勢が求められます。中国のインフラ整備や不動産市場への参入、さらにEV(電気自動車)戦略の専門組織を軸とした中国自動車市場の開拓など、成長分野へのアプローチが不可欠です。同時に、既存のコイルセンターをITでスマート工場化する試みは、持続可能な産業へと脱皮するための試金石(しきんせき:価値を見極める基準)となるに違いありません。
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