世界情勢が激しく揺れ動くなか、日本のものづくり企業が大きな決断を下しています。建設機械大手のコベルコ建機は、グローバルな生産体制の大胆な見直しに踏み切りました。これまで米国向けに供給していた建機の大型部品について、製造拠点を中国からタイへと移管したのです。長期化する米中貿易摩擦による高関税リスクを避けるための先手必勝の策と言えます。この決断に対し、SNS上では「地政学リスクを捉えた見事な経営判断」「タイの重要性がさらに増す」といった前向きな評価が相次いでいます。
この戦略の背景には、経営環境の急激な変化に対応するための強い危機感があります。同社の楢木一秀社長は、2019年に中国の杭州市にある工場から北米向けに輸出していた部品を、タイ工場からの出荷に切り替えたと明かしました。中国から米国への輸出には約3割もの関税がかかるため、年間で7億円前後のコスト増が懸念されていたのです。製造拠点をタイへ移すことでこの莫大な負担を軽減できるわけですから、不透明な国際情勢を生き抜くためには、これほど迅速で柔軟なフットロールが不可欠でしょう。
自動化への投資と東南アジア市場でのシェア死守
同社はピンチをチャンスに変えるべく、タイ工場へさらなる投資を敢行します。2020年中頃を目標に最新の自動化技術を導入し、徹底的なコスト削減を進める計画です。具体的には、溶接ロボットの設置や物流改革などに約5億円を投じました。これにより、主力の20トンクラスの油圧ショベルの製缶品、つまり鉄板を加工して立体的に組み上げる構造部品の生産台数が17%もアップします。生産効率の向上によって中国からの輸入分もタイでの製造に切り替えることが可能となり、さらなるコスト圧縮が期待できる見通しです。
タイは東南アジアで2番目に大きな建機市場であり、コベルコ建機は約25%という高い市場占有率(シェア)を誇っています。しかし、現地では中国市場でトップを走る三一重工などの新興勢力が勢いを増しており、決して油断はできません。楢木社長が「中国メーカーは脅威」と語るように、ライバルの猛追に備えた体制構築は急務です。タイを起点として、今後はインドネシアやマレーシアなど、インフラ開発が進む周辺の巨大マーケットへも需要を掘り起こしていく戦略が、今後の成長のカギを握るでしょう。
同じ土俵での戦いとバリューチェーンが生む勝機
かつて「安かろう悪かろう」と評された中国メーカーの製品は、いまや劇的な進化を遂げています。性能と価格の両面で外資系ブランドとの壁がなくなりつつあり、まさに「同じ土俵」での激しいシェア争いが勃発している状況です。このような値下げ圧力が強まる過酷な環境下でも、コベルコ建機は安易な廉価版(機能を絞った低価格モデル)の投入は行わない方針を貫きます。同社が強みとする抜群の省エネ性能に加え、旋回スピードの向上や動力の強化など、トータルバランスに優れた次世代モデルの開発で勝負する構えです。
私は、この「安さ」に頼らない品質主義の姿勢こそが、日本企業が生き残るための正攻法であると考えます。同社は新車を売るだけでなく、中古車展開やレンタル、整備メンテナンスといった「バリューチェーン」と呼ばれるビジネス領域に勝機を見出しています。これは製品のライフサイクル全体で継続的に利益を上げる仕組み(リカーリングビジネス)であり、景気の波に左右されにくい強い収益体質を作ります。こうした盤石なサービス網を築くことこそが、激変する世界リスクを分散させる最強の盾となるはずです。
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