クラシック音楽の世界で「美音の代名詞」として誰もが認めるヴァイオリニスト、アルテュール・グリュミオーをご存じでしょうか。彼の奏でる艶やかで磨き抜かれた音色には、しっとりとした気品が満ちあふれています。普段はモーツァルトやバロック音楽、ロマン派の作品で洗練された抒情性を聴かせる彼ですが、実は20世紀の近代音楽に挑んだ異色の名盤が存在するのです。
そのアルバムこそが、2020年01月12日の記事でも注目されている「ベルク/ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲」です。正統派のフランコ・ベルギー派スタイルを受け継ぐ彼が、近代の難曲に挑んだ姿は、まさに清純派の女優が本格派ホラー映画で主演を務めるかのような、新鮮な驚きを私たちに与えてくれます。
SNS上でもこの意外な組み合わせは大きな反響を呼んでおり、「グリュミオーのベルクなんて想像がつかなかったけれど、聴いてみたらあまりの美しさに鳥肌が立った」「尖った現代音楽が、彼の弓にかかると極上のロマンティシズムに昇華される」といった絶賛の声が相次いで寄せられているのです。
前半に収録されているベルクの協奏曲は、「ある天使の思い出に」という副題を持つ傑作です。夭折した少女を悼んで書かれたこの曲は、12の音を平等に扱う「十二音技法」という複雑な現代の作曲理論を用いて書かれています。一見すると難解に思える専門的な音楽ですが、グリュミオーの手にかかれば、冷たさは一切消え去るでしょう。
第1楽章の冒頭では、穏やかな波が寄せては返すような、彼の代名詞でもある極上のヴィブラートが胸を打ちます。続く第2楽章の強烈な不協和音でも、彼は決して高貴な姿勢を崩しません。深刻になりすぎず、どこまでも凛とした表情で音楽と正面から向き合う姿は、聴き手を深い救済へと導いてくれます。
一方で、後半のストラヴィンスキーは、18世紀の古典的な形式へ立ち返ろうとした「新古典主義」時代の作品です。サーカスのような賑やかさと、乾いたユーモアが特徴的な楽曲ですが、ここでのグリュミオーは抜群のキレ味を披露しています。特有の潤いを保ちながらも、驚くほど洒脱で軽快な演奏を展開していくのです。
この2つの異なる世界を支えるのが、オランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団です。ベルクを指揮するマルケヴィッチの緻密な音作りと、ストラヴィンスキーを振るブールの柔らかで繊細な響きが、グリュミオーの節度あるヴァイオリンと見事な融合を果たしています。
私は、この録音こそがグリュミオーという音楽家の底知れぬ懐の深さを証明していると感じます。得意なレパートリーに安住せず、一見ミスマッチに思える20世紀音楽の核心を見事に射抜いた演奏は、時代を超えて私たちの心を震わせます。食わず嫌いをしている方にこそ、ぜひ耳にしてほしい究極の1枚です。
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