世界経済を揺るがす中国の通貨・人民元に、今大きな変化の兆しが見えています。為替市場では人民元の対ドル相場が上昇しており、約半年ぶりの元高水準を記録しました。これまで中国当局は、アメリカによる制裁関税への対抗策として元安を誘導していると囁かれてきましたが、その見方が一転しています。
その背景にあるのが、私たちの食卓にも直結する深刻な「豚肉の高騰」です。SNS上でも「中国の豚肉価格が上がりすぎて生活が苦しい」「物価上昇が止まらない」といった悲痛な声が相次いでおり、国民の不満は高まる一方となっています。中国政府にとって、この物価上昇を抑え込むことは今や最優先の課題なのです。
ここで為替の仕組みを簡単に解説しましょう。中国の通貨制度は、中央銀行である中国人民銀行が毎朝発表する基準値をベースに、上下2%の範囲内で取引される仕組みになっています。この基準値には政府の意向が強く反映されるため、為替市場の動向を見れば政府の次の一手が予測できるのです。
米中協議の進展と激変する経済環境
2020年1月20日の基準値は1ドル=6.8664元となり、前週末から大幅な元高に設定されました。2019年8月には、アメリカのトランプ大統領が制裁関税の第4弾を宣言したことで、1ドル=7元の壁を突破する元安が進んでいましたが、状況はわずか数ヶ月で劇的に変化しています。
転換点となったのは、2020年1月15日に米中両国が「第1段階の合意文書」に署名したことです。これにより、アメリカは2020年2月を目途に制裁関税の一部を解除する見込みとなりました。関税を相殺するための元安誘導は、もはや中国にとってメリットが薄いと言えるでしょう。
さらに深刻なのが、家畜伝染病である「アフリカ豚熱(ASF)」の猛威です。この病気は豚やイノシシに感染する生存率の高い病気で、中国本土で殺処分が相次いだ結果、2019年12月の豚肉価格は前年の2倍にまで跳ね上がりました。これに伴い、2019年の消費者物価指数(CPI)は前年比2.9%上昇し、約8年ぶりの高水準を記録しています。
元高がもたらす輸入コスト削減のメリット
消費者物価指数とは、消費者が実際に購入する商品の価格変動を測定する重要な経済指標です。中国政府は2020年の物価目標を3%前後に設定していますが、2020年前半のCPIは4〜5%に達するという予測もあり、物価の抑制は極めて厳しい舵取りを迫られています。
この難局を乗り切るため、中国は海外から豚肉や代替品となる牛肉の輸入を急ピッチで拡大しています。ここで威力を発揮するのが「元高」です。自国通貨が強くなれば、海外からの輸入コストを劇的に抑えることができるため、物価の安定化に向けた強力な武器になります。
米中の合意に基づき、中国は今後アメリカからの農畜産品の輸入を従来の1.5倍に増やす約束をしています。専門家からは、2020年3月までに1ドル=6.7元程度まで元高が進むとの見方も出ており、これは2019年5月の貿易摩擦激化前の水準に匹敵する勢いです。
編集部としては、今回の元高容認は一過性の対策に留まらず、中国の経済モデルそのものが転換期を迎えている証拠だと捉えています。これまでの「輸出大国」から、豊かな国内市場を背景にした「消費大国」へとシフトする中で、強い通貨を持つことは必然の流れと言えます。
食卓の豚肉危機から始まったこの通貨政策の変更は、今後の世界貿易のバランスを大きく変える可能性を秘めています。単なる為替のニュースとしてではなく、私たちの生活や今後の国際情勢を占う一大トレンドとして、この先の展開から目が離せません。
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