中国の湖北省武漢市を中心に拡大を続ける新型コロナウイルスへの警戒が、世界中で急速に高まっています。中国政府は2020年1月23日、感染拡大を阻止するため、武漢市や周辺地域の交通網を遮断するという前代未聞の「都市封鎖」を断行しました。SNS上では「映画のような展開で恐ろしい」「春節の帰省はどうなるのか」といった困惑と不安の声があふれています。世界保健機関(WHO)も緊急事態宣言の検討を始めており、異例のスピードで進む封じ込め作戦の成否に大きな注目が集まっています。
今回の新型肺炎は、過去の脅威と比較しても決して侮れない性質を持っています。現時点での致死率は約3%とされており、2003年に猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)の約10%や、MERS(中東呼吸器症候群)の30%以上と比べれば低めです。しかし、驚くべきはその感染スピードにあります。2020年1月に入ってからの感染者数は早くも600人を超えており、わずか3ヶ月で300人規模だった当時のSARSを上回る勢いを見せているのです。
特に懸念されているのが「スーパースプレッダー」の存在でしょう。これは、通常よりも圧倒的に多くの人へウイルスを媒介してしまう「超感染拡大者」を指す専門用語です。一人の患者から爆発的に市中感染が広がるリスクが指摘されており、ネット上でも実態の解明を求める声が相次いでいます。さらに、2020年1月23日にはベトナムやシンガポールでも初の感染者が確認されました。国境を越えたウイルスの拡散は、すでに現実のものとなっています。
中国本土では2020年1月24日午前0時時点で、感染者が634人、死者は17人に達しました。こうした事態を受けて武漢市では、航空機や高速鉄道、さらには市内のバスや地下鉄まで完全にストップしています。しかし、1100万人の人口を抱える大都市で、封鎖前にすでに300万人以上が市外へ脱出したとの見方もあり、実効性を疑問視する意見も少なくありません。タイミング悪く2020年1月24日からは大型連休である春節(旧正月)が始まります。
ハイテク拠点・武漢の停止がもたらす世界的なサプライチェーンの危機
武漢市の封鎖は、公衆衛生の領域にとどまらず、世界の実体経済にも暗い影を落とし始めています。実は武漢市、中国政府のハイテク産業育成策において極めて重要な心臓部なのです。最先端の「3次元NAND型フラッシュメモリー(データを記憶する電子部品)」の量産工場が存在するほか、スマートフォンの製造拠点も集中しています。こうした部品供給や流通の仕組みを「サプライチェーン(供給網)」と呼びますが、ここが寸断された影響は世界中の企業に波及するでしょう。
さらに、中国国内の消費活動への打撃も深刻視されています。本来であれば、春節は1年で最も消費が盛り上がる「かき入れ時」です。しかし、感染を恐れて外出を控える動きが広がっており、旅行や観光のキャンセルが殺到しています。SARS流行時にも経済成長率が一時的に2ポイント近く急減速した過去があり、今回も同様の景気後退を懸念する声が強まっています。市場の不安を反映し、上海の株価やニューヨークの原油先物価格も大幅に下落しました。
筆者の視点としては、今回の中国政府による強硬な都市封鎖は、感染抑制への強い意志を感じる一方で、経済的な自国や世界へのダメージを過小評価しているのではないかと危惧しています。グローバル化が進んだ現代において、ひとつの大都市を止めるコストは想像以上に巨大です。ウイルスの封じ込めという人道的な最優先課題をクリアしつつ、いかに経済のパニックを最小限に抑え込むか、世界は今、極めて綱渡りの舵取りを迫られていると言えるでしょう。
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