東京大学が、これまでの常識を覆すような超大型の産学連携を次々と打ち出しており、経済界やアカデミアの間で大きな話題を呼んでいます。2019年秋以降、半導体受託生産で世界トップを走る台湾積体電路製造(TSMC)やソフトバンク、さらには米IBMといったグローバル企業との共同研究を立て続けに発表しました。これらは単なる技術交流にとどまらず、最先端の知見の導入や研究基盤の大幅な強化を狙った極めて野心的な試みなのです。
SNS上でも「これほどの大企業が並ぶのは純粋にワクワクする」「日本の大学がゲームチェンジャーになるかもしれない」といった期待の声が続々と上がっています。一方で「予算規模が大きいだけに、具体的な成果が見えるまでは安心できない」という冷静な見方もあり、注目度の高さがうかがえるでしょう。この巨大プロジェクトがどのような果実をもたらすのか、多くの人がその行方を見守っています。
特に注目したいのが、2019年12月に発表された東大とソフトバンクによる人工知能(AI)研究所の設立です。ここで大きな鍵を握るのが、経済産業省が整備した「CIP(共同研究技術認可法人)制度」という仕組みになります。これは企業と大学が共同で研究組織を立ち上げ、そこから生まれた成果をスムーズにベンチャー企業などの形で会社化できるようにする制度です。技術を研究室の中に埋もれさせず、スピーディーに社会へ実装するための画期的な架け橋といえます。
両者は基礎研究だけでなく医療などの応用分野にも踏み込み、10年間で200億円規模という巨額の資金を投じる計画を掲げました。共同研究がビジネスとして軌道に乗れば、そこから得られた収益を再び研究所の運営資金に回すという好循環を目指しています。東大の五神真総長も、この新制度をいち早く活用して自立した経営体を作りたいと強い意欲を示しました。
背景には、2004年度の国立大学法人化以降、国からの運営費交付金が減り続け、研究資金やポストの確保に苦しんできた厳しい現実があります。国の財政に余裕がない以上、大学が生き残るには自ら資金を稼ぐしかありません。筆者は、大学が「象牙の塔」にこもる時代は完全に終わったと考えており、このような経営努力は日本の科学技術を守るために絶対不可欠な決断であると強く支持します。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は「日本はAI分野で米中に遅れをとっているが、何とか追いつき追い越したい」と危機感をあらわにしています。従来の産学連携といえば、特定の研究室が数百万円程度の予算で行う小規模なものが主流でした。しかし今回の試みは、大学と企業のトップ同士がコミットする「組織対組織」の連携であり、初期の参加人数も150人規模と、その本気度は桁違いです。
さらに東大は、2019年11月に最先端半導体でTSMCと、2019年12月には次世代の超高速計算機である「量子コンピューター」に関してIBMとの連携も発表しました。量子コンピューターとは、従来のコンピューターでは何年もかかる複雑な計算を数秒でこなす可能性を秘めた未来の技術です。デジタル技術が猛烈なスピードで進化する現代において、大学が単独で最新設備を揃えるのは不可能なため、世界のトップランナーの手を借りるのは合理的な戦略でしょう。
ただし、これらの素晴らしい構想も、現時点では具体的な協力内容が不透明な部分を残しています。企業はお金を生み出さない場所に投資を続けられませんから、真の勝負はこれからです。東大がこの巨大な産学連携で目に見える成功モデルを証明できれば、資金難に悩む日本全国の他大学を救う希望の光となるに違いありません。
コメント