激しい抗議活動が巻き起こっている香港の街並みにおいて、今やレストランやショップの選び方にまで大きな変化が押し寄せています。市民の間では、デモ活動を後押しする店舗を積極的に利用しようという「黄色経済網(イエロー・エコノミック・サークル)」と呼ばれる運動が、驚くほどの広がりを見せているのです。この動きは、中国側による強烈な経済的圧力に対抗するために生まれた、新しい形の抵抗手段と言えるでしょう。
一方で、中国政府寄りであると見なされてしまった「青色」のレッテルを貼られた店舗は、市民による激しい不買運動や、時には破壊行為の対象にまでなってしまっています。こうした事態に対して、インターネット上やSNSでは「自分たちの購買行動で未来を変えられるのは素晴らしい」という支持の声が上がる反面、「お店を色分けして排除し合うのは悲しい」といった、激化する社会の分断を本気で心配する声も数多く飛び交っている状況です。
アプリで選別される街の飲食店たち
香港に暮らす22歳の建築デザイナーである王さんは、どこで食事や買い物をするかを決める際、必ずスマートフォンの専用アプリを立ち上げます。画面上のデジタルマップには、民主派を意味する「黄色」と、親中派を示す「青色」に細かく色分けされた店舗情報がずらりと表示される仕組みです。王さんは、青色とされた店には決して足を踏み入れず、同じく青色認定を受けた香港鉄路(MTR)の利用すら取りやめました。
王さんは、香港の存在を裏切った企業に対しては、資本主義のルールに則ってお金の力で対抗するしかないのだと、強い口調でその熱い胸の内を語ってくれました。このように、自分の大切な資産をどこに投じるかという個人の選択が、今の香港ではそのまま政治的な意思表示の手段になっているのです。専門用語として、こうした特定の企業を市民が一斉に拒絶する動きは「ボイコット(不買運動)」と呼ばれ、歴史的にも強力な抗議手法として知られています。
大繁盛の黄色店と苦境に立たされる青色店
若者たちで溢れ返る繁華街の旺角(モンコック)からほど近い場所にある火鍋専門店「66ホットポット」の店内へ一歩足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がっています。ガスマスクを装着した愛らしいぬいぐるみや、デモのメッセージが書かれたスローガンが至る所に飾られているのです。このお店は代表的な「黄色店」としてSNSでも瞬く間に有名になり、毎日のように民主派を応援する若い客が押し寄せています。
店主の黄さんによれば、抗議活動が始まった当初こそ経営に大きな打撃を受けたものの、現在では連日予約で満席になるほどの活気を取り戻したそうです。黄さんは、同じ志を持つ仲間たちに利益を還元するため、仕入れ先も同じく黄色経済網に属する業者から選んでいると教えてくれました。同様に、デモを応援するカフェチェーンの「龍門氷室」でも、毎週末になると店外に長い行列ができるほどの熱狂ぶりが続いています。
その一方で、親中派とされてしまった牛丼チェーンの「吉野家」や、スナック菓子小売りの「優品360」といった大手企業は、市民からの厳しい不買運動に直面し続けています。店頭がデモ支持の付箋や寄せ書きで埋め尽くされている台湾フルーツティーの加盟店オーナーである劉心暉氏は、まともな普通選挙が実施されていないこの香港において、この購買運動は市民が手に入れた「お金による大切な一票」なのだと分析していました。
巨大な中国の締め付けに対する市民の防衛策
一連の騒動が始まって以降、中国政府はキャセイパシフィック航空や香港鉄路といった香港を象徴するトップ企業に対して強硬な締め付けを行い、圧倒的な経済の力で抗議活動をねじ伏せようとする姿勢を明確にしました。これに対して市民が編み出した「黄色経済網」は、あまりにも巨大な国家権力に立ち向かうための、言わば草の根の自己防衛システムなのです。
創業者一族の娘がデモを激しく批判したことで、市民から徹底的なボイコットを受けている外食大手の美心集団(マキシムグループ)を避けている23歳の胡さんは、力勝負では警察に勝てないからこそ、これは形を変えた新しい政治体制との戦いなのだと覚悟を示します。こうした市民の動きに対し、中国共産党の機関紙である人民日報は「香港の経済文明における最大の恥だ」と言い放ち、激しい警戒感を露わにし始めました。
さらに、当局の影響下にある親中派のメディアは、黄色店に対して無許可営業の疑惑を告発したり、ネット上で「料理がまずい」といった書き込みを意図的に流したりする、大がかりなネガティブキャンペーンを仕掛けています。専門用語で言うこの「ネガティブキャンペーン」とは、ライバルの社会的信用を落とすために組織的に悪い噂を流す手法のことで、情報戦の様相を呈していることがよく分かります。
曖昧な境界線と、引き裂かれる人々の本音
しかし、このネット主導の運動には特有の危うさも潜んでいます。例えば、美心集団系の「スターバックス」が激しい怒りの矛先を向けられて破壊される一方で、同じく中国の国有企業が運営に携わっている「マクドナルド」に対しては、なぜか大きな抗議行動が起きていません。何をもって「黄色」とし、どこからを「青色」とするのか、その境界線は極めて曖昧であり、行き過ぎたレッテル貼りが横行している側面は否めないでしょう。
あらゆるお店が2つの色に引き裂かれ、コミュニティの断絶は深刻さを増すばかりです。九龍半島の鯉魚門(レイユームン)にある「銀龍珈琲茶座」の店内には、香港警察のトップが店を訪れた際のお宝写真や、警察を応援するポスターが誇らしげに掲げられています。女性店主の李凱瑚さんがSNSのフェイスブックで警察への支持をはっきりと打ち出したところ、一転して「青色店」としての認知が拡大しました。
それにより、地元の民主派客は去っていきましたが、今度は中国本土からの大勢の観光客や警察関係者が、彼女を応援しようと店に殺到するようになったのです。「警察が大好き」とデザインされたお揃いのTシャツを着て忙しく接客をこなす李さんですが、その本音は複雑です。本当は街を色分けするような風潮は好きではなく、ただ純粋に「うちのミルクティーが美味しいからお店に来たよ」と言ってもらえる日が来てほしいと、寂しげに打ち明けてくれました。
人口14億人を誇る中国という巨大な市場と比較すると、わずか740万人ほどに過ぎない香港の市場規模は小さく、大学の専門家も「この運動が中国経済そのものに与える物理的なダメージはそれほど大きくない」と見ています。しかし、私はこの運動の本質は数字の大きさではなく、市民の「心の叫び」そのものだと強く感じます。抑圧された環境のなかで、せめて消費行動だけは自分の意志で決めたいという切実な願いが、この色分け運動を生み出したのではないでしょうか。
政府側が市民の声に真摯に耳を傾け、納得のいく対話の場を設けない限り、この静かなる抵抗運動は、形を変えながらどこまでも長期化していくに違いありません。便利さや美味しさといった本来の価値ではなく、政治的な思想だけで街のすべての店舗が分断されてしまう現状は、あまりにも痛々しいものです。一刻も早く、誰もが自由に、ただ純粋に美味しい食事を笑顔で楽しめる平和な香港の日常が戻ることを、切に願ってやみません。
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