IR誘致の光と影!アメリカ・ボストンの化学工場跡地がカジノで激変した奇跡の街づくりと日本への教訓

ギャンブルだけでなく、ホテルやレストラン、国際会議場などが一体となった統合型リゾート「IR」の存在が注目を集めています。アメリカのボストン中心部から車で10分ほどの場所にあるマサチューセッツ州エバレット市では、2019年6月に驚きの施設が開業しました。かつて化学工場の跡地として放置されていたエリアに、カジノ大手のウィン・リゾーツ社が「アンコール・ボストンハーバー」を誕生させたのです。現在は1日に約2万4000人もの人々が訪れる、活気あふれる街の新たなシンボルとなっています。

ネット上でも「お荷物だった土地がこれほど綺麗に生まれ変わるなんて夢がある」「地域の財政が潤うのは羨ましい」といった好意的な声が多く寄せられていました。実はこの場所は、1800年代後半から化学メーカーの工場が建ち並んでいたエリアです。しかし、1980年代に工場が撤退して更地になってからは、土壌汚染が原因で40年近くも開発の手がつけられない「街のお荷物」状態でした。そんな深刻な状況を劇的に変えたのが、2010年代前半に州が踏み切ったカジノの合法化という決断だったのです。

エバレット市は、カジノ事業者が持つ圧倒的な資金力を活用して地域を再生させようと、この工場跡地へIRを誘致する大勝負に出ました。その目論見は見事に的中し、事業者側から約75億円にのぼる敷地の浄化・修復費用のほか、周辺道路の拡張工事費やシャトルバス、水上バスの整備費まで引き出すことに成功したのです。行政の予算だけでは到底不可能だった巨額の投資を民間企業が肩代わりしてくれたわけで、市長も「ウィン社のおかげで街が生まれ変わった」と、その莫大な資本力に感謝の言葉を述べています。

なぜこれほどの好条件を引き出せたのでしょうか。そこには、州独自の「住民投票で過半数の賛成を得なければ開業できない」という厳しいルールが関係していました。事業者が地域住民の信頼を得るために、必死で地域貢献に投資せざるを得ない仕組みになっていたのです。こうした海外の成功事例は、まさに目から鱗が落ちる思いがいたします。行政任せにせず、制度の力で企業の資金を地域の利益へと還元させる仕組みづくりこそ、現在の日本が見習うべき最も重要なポイントではないでしょうか。

日本国内に目を向けると、大阪府や大阪市が夢洲という人工島をIRの候補地として選定し、事業者に対して周辺のインフラ整備費の一部負担を求めている段階にあります。エバレット市の事例を参考にすれば、日本ももっと早い段階から住民を巻き込んだ深い議論を行うべきでしょう。それによって地域全体の価値を高めるための熱意ある投資を、事業者側からさらに引き出せる可能性が高まるはずです。単に施設を誘致するだけでなく、地域主導で交渉を進める姿勢が求められていると言えます。

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東洋のラスベガス「マカオ」が直面する光と影の現実

しかし、IRがもたらす巨大な経済効果は、決して良いことばかりとは限りません。「東洋のラスベガス」として世界的に有名な中国のマカオでは、2002年に外資系のカジノ参入を認めて以降、実質国内総生産である実質GDPと観光客数がともに3倍以上に跳ね上がりました。マカオ政府は莫大なカジノ税収を原資として、2008年からは全住民に毎年10万円前後の現金を配っているほか、教育費や医療費も無料化しています。これだけ聞くと、まるで天国のような暮らしを想像されるかもしれません。

ところが、現地の住民からは「急速な経済成長のせいで住宅価格が暴騰し、若い世代が家を買えない」といった悲鳴や、観光客の増加による極端な交通渋滞への不満が噴出しているのです。SNS上でも「いくらお金を配られても、生活環境が悪化したら意味がない」「物価高で相殺されてしまう」といったリアルな意見が目立ちます。実際に香港大学が実施した調査によると、これほど手厚い富の還元を受けているにもかかわらず、マカオ政府に対して不満を抱いている住民が3割にものぼるという衝撃的な結果が出ています。

さらに深刻なのが、IRが地域の他の産業を飲み込んでしまう「副作用」の問題です。マカオのカジノ関連業種の月収中央値は約28万円となっており、全業種の平均である約22万円を大きく上回る好待遇となっています。その結果、地元で愛されてきた飲食店や小売店からIR産業へと人材が大量に流出してしまいました。深刻な人手不足と人件費の高騰に耐えきれず、廃業に追い込まれる地元の老舗店舗が後を絶たないという、皮肉な現実が引き起こされているのです。

日本で計画されているIRの雇用創出効果は、運営時において大阪府と大阪市で約9万人、和歌山県で約2万人と試算されています。しかし、マカオの現状を知れば、これを手放しで歓迎することはできません。現在の日本はただでさえ深刻な人手不足に悩まされているため、特定の巨大施設が労働力を一気に吸収してしまえば、関西圏の既存の産業が崩壊しかねないというリスクを孕んでいます。経済を活性化させるためのIRが、地域経済の首を絞める結果になっては本末転倒です。

人口約70万人のマカオでは多くの住民がカジノの恩恵を受けられますが、大阪市は約275万人もの人口を抱えており、IR関連の仕事に就ける人はごく一部に限られます。大多数の住民に直接的なメリットが行き渡るかどうかは、現時点では全くの未知数と言わざるを得ません。華やかなカジノの裏側にあるマカオの複雑な状況は、地域社会との共生がいかに難しいかを証明しています。利点だけに目を奪われず、影の側面にも真摯に向き合う冷静な視点が、今の私たちには必要です。

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