世界を揺るがす経済の枠組みが、今まさに大きな転換期を迎えています。2010年代の終わりにかけ、モノやサービスの自由な行き来を目指したグローバル化は、かつてない猛烈な逆風にさらされることになりました。SNS上でも「これまでの貿易ルールは本当に公平なのか」といった疑問の声が噴出しています。
特に注目されているのが、先進国側から沸き起こる強い不満の数々です。本来、世界の貿易ルールは先進工業国が自国製品を有利に輸出するために構築したものでした。しかし、中国をはじめとする新興国が製造業で圧倒的な優位に立ったことで、これまでの潮目が完全に変わってしまったのです。
新興国の台頭と取り残される地域
新興国における製造業の強みは、何といっても労働者に支払う賃金の安さにあります。この状況に対抗するため、北米自由貿易協定に代わる新たな枠組み「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」では、無関税の条件として一定以上の時給が支払われる工場での生産を義務付けました。
これは明らかにメキシコの低賃金という優位性を制限する動きと言えます。しかし、このような規制を設けても、先進国内の工場撤退によって荒廃した地域がすぐに救われるわけではありません。SNSでは「失業した労働者の痛みが置き去りにされている」との指摘が相次いでいます。
ここで言う「比較優位(ひかくゆうい)」とは、国ごとに得意な産業に特化して貿易を行うことで、世界全体の利益を最大化できるという経済学の基本理論です。ですが、現実には工場を失った労働者が、すぐに成長産業であるサービス分野へ転職することは極めて困難だと言わざるを得ません。
暴走するパワーポリティクスと未来への教訓
こうした市民の深刻な不満こそが、アメリカのトランプ大統領の誕生やイギリスの欧州連合(EU)離脱という政治のうねりを引き起こしました。先進国のエリート層はサービス市場の拡大に満足し、製造業の海外流出がもたらす地方の衰退に目をつぶり続けてきたのです。
その結果、現在の通商協議は対話の場ではなく、力で相手をねじ伏せる「パワーポリティクス(権力政治)」の舞台へと変貌を遂げました。高い関税を武器に、自国よりも立場の弱い国へ不条理なルールを強行突破で押し付ける手法が、当たり前のように横行しています。
しかし、このような強硬手段は将来に禍根を残すでしょう。これからの世界市場を支える若い消費者は、豊かになりつつある新興国の市民たちだからです。力にモノを言わせて不利益な協定を押し付ければ、いずれ歴史的な仕返しを受ける事態になりかねません。
押し付けがましい協定を自制する勇気
私は、今こそ主要国が目先の利益に惑わされず、大局的な視点を持つべきだと強く確信しています。グローバル化の流れに逆行し、輸入の数値目標や数量規制で貿易を強引に管理しようとする試みは、世界の経済や供給網(サプライチェーン)を不健全にゆがめるだけです。
先進国が取り組むべきは、発展途上国に対して関税を適切な水準まで下げるよう毅然と求めることです。また、不当な補助金などの問題は、世界貿易機関(WTO)を通じた法的な解決を目指すべきであり、一方的なお仕着せの貿易協定は自制することこそが賢明な判断でしょう。
2020年01月30日、元インド準備銀行総裁のラグラム・ラジャン教授が示した警告は、自由貿易の本質を突いています。弱者を保護主義へと走らせない国内政策を整えつつ、国際社会では対等な協調を模索することこそ、真に持続可能な経済成長をもたらすのです。
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