中国で最も権威のあるがん研究機関の一つ「中山大学腫瘍対策センター」が、医療現場の常識を覆す画期的なシステムを開発しました。2019年10月に発表されたこのシステムは、人工知能(AI)を活用して食道や胃といった消化器の腫瘍を自動で見つけ出すというものです。最先端の医療が都市部に集中する一方で、地方の医療格差が深刻化している中国において、この技術は救世主として大きな期待を集めています。SNS上でも「地方の命を救う素晴らしい進歩だ」と絶賛する声が相次いでおり、注目度は高まる一方です。
開発の背景にあるのは、地方病院の圧倒的な人材不足と医師の技術格差です。同センターの徐瑞華主任は、この現状に強い危機感を抱いていました。早期発見が極めて重要な消化器がんですが、内視鏡検査は医師の経験やスキルに依存するため、見落としのリスクが常に付きまといます。そこで同センターは、約2年の歳月を費やして今回のAIシステムを構築しました。健常者と患者の双方から集めた100万枚もの内視鏡画像を「ディープラーニング(深層学習)」という技術で解析し、AIに腫瘍の特徴を徹底的に学習させたのです。
ここで使われているディープラーニングとは、人間の脳の神経回路を模した仕組みで、コンピューターが大量のデータから自動で特徴を学び取る最先端のAI技術を指します。今回は米グーグル社の基本技術が活用されました。驚くべきことに、このシステムを導入すると、専門医でも4%から5%ほどあった見落とし率が、わずか1%から2%にまで激減するそうです。技術が未熟な医師がサポートを受ければ、診断ミスの防止効果はさらに跳ね上がるでしょう。さらに「AIは疲労しない」ため、医師の負担軽減にも直結します。
現在の中国は、世界保健機関(WHO)の2015年のデータで人口1万人あたりの医師数が17.9人と、日本の23.4人(2014年時点)と比べても深刻な医師不足に直面しています。過酷な労働環境から、我が子を医療従事者にさせたくないと考える親も多いのが現状です。同センターも年間110万人の外来患者を抱えており、2020年6月には新たな診察エリアを開設して受け入れ規模を2倍に拡大する計画を進めています。こうした急速な規模拡大に対応するためにも、ITによる業務の効率化は必要不可欠といえます。
私は、この医療とITの融合こそが、今後の世界の医療を大きく変える鍵になると確信しています。徐主任が「医学を知らないエンジニアだけでも、工学を知らない医師だけでも実現できない」と語るように、分野の垣根を越えた人材育成が何よりも重要です。同センターは今後、日本の優れた内視鏡メーカーなど海外の企業や医療機関との連携も視野に入れています。14億人の莫大な症例データを強みに進化を続ける中国の医療AIは、やがて国境を越えて私たちの健康を守る強力なパートナーになるに違いありません。
コメント