抗議活動による社会的な緊張が長期化し、さらに新たな新型肺炎の脅威にも直面している2020年02月07日現在の香港。街全体が重苦しい不安に包まれる中、人々の心の拠り所としてこれまで以上に注目を集めている場所があります。それは、地元住民から絶大な信頼を寄せられている道教寺院「黄大仙(ウォンタイシン)廟」です。SNS上でも「これほど混沌とした状況だからこそ、神頼みしたくなる気持ちが痛いほど分かる」といった、現地に寄り添う共感の声が数多く上がっています。
春節の時期を迎えた境内は、一年の安寧を必死に祈る熱気と線香のもうもうとした煙に満ちていました。この黄大仙廟は、古代中国の思想である「風水」において、大地のエネルギーが集中する極めて運気の強いパワースポットとされています。風水とは、都市や建物の配置によって気の流れを制御し、開運を導く環境学のことです。参拝客たちは鶏の丸焼きなど豪華な供え物を手に、火の付いた線香を掲げて本殿へと進み、神妙な面持ちで頭を下げていました。
ここで特に人気を集めているのが、日本の「おみくじ」を彷彿とさせる独特の占いです。参拝者は本殿の前でひざまずき、心の中で神様に問いかけをしながら、たくさんの竹の棒が入った筒を激しく振り動かします。そして、不思議なことに1本だけ滑り落ちた棒の番号をもとに、自身の運勢を占うのです。境内には100人を超えるプロの占師が控えており、その番号を伝えることで、深い意味が込められた漢詩の紙を手渡してくれます。
占師は相談者の生年や姓を考慮しながら、漢詩に隠されたメッセージや生活の注意点を丁寧に読み解いていきます。広東語だけでなく日本語に対応できる占師もいるため、外国人にとっても心強い存在です。今回は、地元のメディアでも度々紹介されるほどの実力を持つ人気占師の陳さんに、誰もが最も気になっている「これからの香港社会の行方」について、ずばり尋ねてみることにいたしました。
陳さんが導き出した予言は、「香港の状況は表面的には一見落ち着いているように映るものの、内実は極めて深刻である」という非常に厳しい内容でした。確かに一時と比べて激しい衝突は減少傾向にありますが、新型肺炎の感染拡大という新たな難題が重なり、社会の動揺は収まりません。占いという神秘的な視点から見ても、現在の香港が抱える闇は深く、すぐに明るい希望に満ちた展望を描くことは難しいようです。
深刻な情勢不安の煽りを受け、かつて境内を埋め尽くしていた中国本土からの団体観光客は激減してしまいました。しかしその一方で、信仰心がとりわけ厚い地元の人々は変わらずこの場所に足を運び続けています。陳さんのもとには、将来に強い不安を抱いた若者たちから「このまま香港に留まるべきか」、あるいは「台湾や日本へ移住するべきか」という、人生をかけた切実な人生相談が殺到しているそうです。
歴史を振り返れば、黄大仙地区は2019年11月の区議会議員選挙において民主派が全議席を独占し、政治的変革の象徴となった地域でもあります。しかし一歩境内の外へ出ると、高層住宅の足元にはデモ隊が残した生々しい落書きが消されないまま佇んでいました。伝統的な信仰と、激動する冷酷な現実が奇妙に同居するこの空間で、人々が切に願うのは、ただ平穏な日常が戻ることだけなのかもしれません。
筆者は、この厳しい占いの結果こそが、現在の香港市民が抱える言葉にならない恐怖や閉塞感をそのまま映し出していると感じてなりません。政治の混迷に疫病の恐怖が重なる二重苦の中で、未来を模索する若者たちの姿には胸が締め付けられます。しかし、どれほど時代が揺れ動こうとも、神仏に祈りを捧げ、必死に生き抜こうとする人々の強さがある限り、この街の灯火が完全に消え去ることはないと信じています。
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