日本が世界に誇る伝統芸能、歌舞伎の世界で圧倒的な存在感を放つ二代目・中村吉右衛門さん。その波乱に満ちた半生を紐解く待望の自叙伝『夢見鳥』が、日本経済新聞出版社から現在好評発売されています。本作は、2018年07月01日から日本経済新聞の朝刊で連載された人気コラム「私の履歴書」に、吉右衛門さん本人が芝居への熱い想いを語り下ろした内容を加え、大幅に加筆・再構成したファン必携の一冊です。
読者の皆様の中には「私の履歴書」という言葉に馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。これは各界の著名人が自身の人生を振り返る日経新聞の看板連載であり、その時々の時代背景と共に綴られる言葉は多くのビジネスパーソンや文化人に勇気を与えてきました。SNS上でも連載当時から「芸の深淵に触れるような言葉の重みがある」「人間・吉右衛門の葛藤が伝わってくる」と大きな反響を呼び、書籍化を待ち望む声が数多く寄せられていたのです。
本書の核となるのは、偉大すぎる先代の影を背負いながら歩んできた吉右衛門さんの「宿命」と言えるでしょう。一代で名優の地位を確立した初代・中村吉右衛門という巨星の跡を継ぐ重圧は、想像を絶するものだったに違いありません。しかし、彼はその重みを逃れるべき足枷とするのではなく、先人が積み上げてきた伝統を真摯に受け止めるための糧へと昇華させました。さらなる高みを目指して修業に打ち込むその姿は、まさに現代歌舞伎の第一人者としての風格に満ちています。
75年という長い歳月を振り返る本編では、舞台の上では決して見せることのない人間らしい苦悩や、芸の神髄に迫るためのたゆまぬ努力が情緒豊かな表現で綴られています。単なる成功者の回顧録に留まらず、伝統を守りながら革新を続けるための哲学が詰まっている点に、私は編集者として深い感銘を覚えずにはいられません。一つの道を極めようとする者の言葉は、歌舞伎ファンならずとも、現代を生きる全ての人の心に響く普遍的な輝きを放っているのではないでしょうか。
装丁は四六判の282ページとなっており、手に取るとその重厚さが心地よく伝わってきます。価格は本体2300円(税別)で、2019年08月05日現在、全国の書店やオンラインショップにてお買い求めいただけます。芸に生き、芸に殉ずる覚悟を決めた男の生き様を、ぜひこの機会にじっくりと味わってみてください。伝統のバトンを次世代へ繋ぐために彼が見た「夢」の続きが、この美しい一冊の中に鮮やかに描き出されていることでしょう。
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