日本企業が、自由貿易によって得られるはずの多大なメリットを十分に享受できていないという衝撃的な事実が明らかになりました。全輸出先の3分の1を占める国や地域と自由貿易協定(FTA)を締結しているものの、日本貿易振興機構(ジェトロ)の最新の調査によれば、実際に関税の優遇措置を活用している企業は全体の半数にも満たない状況です。せっかく結んだ国際的な約束事も、使われなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。
そもそもFTAとは、特定の国同士で輸出入にかかる「関税」を撤廃したり、引き下げたりするルールのことです。これに加え、投資のルールなども含めたより広範な枠組みを経済連携協定(EPA)と呼びます。2018年12月にはTPP11、2019年2月には日欧EPAが相次いで発効し、日本にとって外需を取り込むための舞台は整ったはずでした。しかし、この成長戦略が「空回り」している現状に、SNSでは「手続きが難しすぎて諦めた」「結局、大企業しか恩恵を受けられないのか」といった嘆きの声が広がっています。
関税が下がれば、日本の優れた製品を海外でより安く販売でき、価格競争力が飛躍的に高まります。それなのに、なぜ利用が進まないのでしょうか。最大の壁は、輸出する商品が本当に日本製であることを証明する「原産地証明」という手続きの煩雑さにあります。例えば、冷蔵庫一台を輸出する際にも、使用した全部品のリストや製造工程図、さらには輸入部品の証明書の写しまで揃えなければなりません。この事務負担が、現場の担当者を疲弊させているのです。
年間1.1兆円の損失を食い止めるために必要な組織の変革
デロイトトーマツグループの試算では、2019年において活用されていない関税優遇額は最大で約1.1兆円にも上るとされています。さらに2025年には、その規模は2兆円にまで膨らむ見通しです。これは輸出額の7%以上に相当する莫大な金額であり、日本経済の損失と言っても過言ではありません。専門家は、大企業であっても関税対応が現場任せになっており、会社として組織的に取り組めていないことが、利用率が伸び悩む一因であると鋭く指摘しています。
一方、海外に目を向けると、ライバル国は官民挙げて企業のサポートに乗り出しています。例えばオーストラリアでは、専用サイトに品目コードを入力するだけで、関税優遇の条件が即座に検索できる仕組みを構築しています。また韓国では、2018年のFTA利用率が73.5%という高い水準を記録しました。韓国政府は専門家を企業に派遣して直接助言を行うなど、徹底した支援策を講じており、日本もこうした攻めの姿勢を学ぶべき時期に来ているのではないでしょうか。
私は、日本政府が農産品の関税引き下げと引き換えに工業製品の関税撤廃を勝ち取ってきた努力を無駄にしてはならないと考えます。農家への補助金と同様に、輸出企業が円滑に制度を利用できるためのITインフラ整備や相談窓口の一元化は急務です。特に、2019年8月21日から22日にかけて米ワシントンで開催される日米貿易交渉の結果次第では、さらなる対応が求められます。複雑なルールを「使いこなす」力こそが、これからの日本企業の真の競争力になるはずです。
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